2/03/2008

ソニー=ロリンズ「イースト ブロードウェイ ラン ダウン」

 週末はまた雪が降った。今回は日曜日の未明から深々と降り続き、川崎でも10cm以上の積雪となった。この週末はほとんど自宅近辺で過ごした。平間駅の界隈では小さいながらもいろいろと新しいお店ができていて、土曜日の夜は駅の近くにできた鉄板お好み焼き屋「シーメー2」というお店に入ってみた。

なかなかイケメンの兄さんがやっているところで、アジアン風の落ちついた内装でまとめられた店内は居心地もよく、料理も十分に楽しめた。大阪の下町料理「とん平焼き」などもあり、お店の看板であるお好み焼きもとてもおいしかった。値段も平間価格で安心である。お酒も焼酎を中心にいろいろと揃えてあり長く居座って呑むにもいい雰囲気である。ただ、せっかくいいお店なのにお客の入りが芳しくないのが気がかりだ。なんとか頑張ってほしいものである。

先週、会社の同僚から妙な噂を耳にした。テナーサックスの巨匠ソニー=ロリンズがこの春に来日するというもの。ロリンズといえば、確か2、3年前に「最後の海外公演」として来日したはず。長年連れ添った奥様に先立たれ、そのショックもあって体力の衰えが著しくなり、彼女の分も含め少しでも長く生きたいという思いから本人がそう決断したということだったと記憶している。

確かに調べてみると今年の5月に来日し、東京と大阪で一晩ずつの公演を行うとあった。メンバーなどは明らかにされていない。本人の体調がかなり回復した何よりの証拠だと思えば、ファンにはよろこばしい限りである。しかし、そういうこととは別に、なんとも言い難い気持ちがぬぐい去れないのも事実だ。確かにロリンズの音を生で聴いてみたいとは思うのだが、なんというか(巨匠には失礼ながら)胡散臭さの様なものを感じないと言えばウソになる。来日公演の告知を視ながら僕はそんなことを感じていた。

少し考えてみて思ったのは、やはり奥様が亡くなられたことはそれほどロリンズにとって大きなことだったということと、その彼が音楽や人生に対して本当に強い自身を持っているのだなということだった。こればかりは実際にそういう境遇に遭った人にしかわからないのだろうが、僕の人生のなかでは、父が母を亡くした後の最初の1年間とその後の様子のことが想い出される。そして自分自身にも妻がいること、そして自分が音楽をとても好きだということだ。そう考えると、彼の姿を見てみたい彼の音を聴いてみたいという気持ちも少しわき起こってきた。

77歳という年齢はサックス奏者にはかなりキツそうな気もするが、一昨年のオーネット=コールマンのことを思えば、そういう心配はあまり意味のないことのように思う。あくまでも本人がやると言っているのだから演奏にはそれなりの自信があるに違いない。まあ確かに往年の強力な演奏を考えれば、単純にオーネットの音楽と比較するのは無理があるかもしれない。それでも彼の音楽の魅力は十分に伝わってくるのだろう。

そんなことを考えるうちに、当たり前のようにロリンズの音楽が聴きたくなった。ロリンズといえばこのろぐのはじめの頃に「ザ ソロ アルバム」を取りあげている。あれはいまでも僕が好きなロリンズだが、今回聴きたいと思ったのは違うアルバムだった。「イースト ブロードウェイ ラン ダウン」、これもまた僕には印象深いロリンズの作品だ。

僕が中古レコードを一生懸命さがして回っていた大学生の頃、このレコードはいつでもどこでも中古の棚で出会うことができた。つまりそれだけ売られやすいレコードだったというわけだ。何度も顔をあわせているうちに、僕はこのアルバムのジャケットに愛着を感じてしまっていたのかもしれない。乱暴に絵の具を塗り付けた前衛画にロリンズの写真がまるで遺影の様に貼付けられている。これが何ともカッコいい。

そしてそのジャケットの雰囲気そのままに、作品の中身はなんともまた粗っぽい音楽になっている。フレディー(=ハバード)を加えた1曲目のタイトル曲は、フリーの影を引きずりながらもかつてのジャズの都であり続けようとする当時のマンハッタンの状況を表しているようだ。コルトレーンのもとを去ったエルヴィンもまたロリンズと同じような気持ちだったのかもしれない。あと、ジミー=ギャリソンのベースが大胆にフィーチャーされているのもいい。おそらくスタジオ録音でギャリソンのベースをここまで大きく扱っている作品は他にない。

トリオ編成の後半2曲も素晴らしい。どちらも非常にロリンズらしい音楽なのだが、力の抜け方とでもいうのか、音楽に対する構え方が明らかに従来のものと異なる姿勢になっていて、それが僕には「本当のロリンズ」とでも言えばいいのか、そういう魅力が強く伝わってくるのだ。僕は彼の代表作はある程度持っているし、それらをたまに耳にすることもあるが、それとは別のロリンズを聴けるこの作品が「ザ ソロ アルバム」と並んで、僕のお気に入りなのである。

今度の来日公演で彼の楽器から出てくるのはもしかしてこういう音なのかもしれない。そう考えると、なんだか急に聴きに出かけてみたい様な気がしてきた。

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