2/17/2008

時間の諸相

木曜日に妻の祖母が亡くなりまして、家内は次の日から日曜日までの予定で、実家のある広島の方に帰りました。自分も一緒に帰った方がいいのかどうか少し考えたのですが、このところずうっとホームで暮らしていらしたお祖母さんには、とうとう一度もお会いすることもなく、お通夜やお葬式にだけ参加させてただくというのもなんとなく気が引けておりましたところに、妻の方もまあ遠いところだし無理しなくてもいいんじゃないかと言ってくれましたので、今回は独りで家に残って週末を過ごすこととなりました。

急にそのようなことになりましたので、特に何をするという予定があるわけではなかったのですが、まあ自分の好きなことをやりたいようにして時間を過ごすしかありません。いつもそうしているではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、いざこういうことになってみるとあながちそうとも限らないなと感ずるところもないわけではありません。

時間というものは不思議なもので、本来は世の中にはひとつの時間の流れしかないはずなのですが、そのなかを行きてゆく者は皆めいめい己の時間というものがあると信じて疑いません。私がまだ独り身でいたころに、ある友人が私にこういいました。

「まったく最近は独り身のおまえがうらやましいわ。なんせ自分の時間というものがいっぱいあるやろ」
「そんなもんかね」
「そりゃそうや。おれらみたいに結婚して子供もおったら、そりゃそういうもんはないでえ。ええか、先ず結婚したら自分の時間は半分になるわけや。そこへ子供ができてみい、それで自分の時間はさらに半分になるようなもんや。そこへもてきて、仕事やら付き合いやらでさらにその半分、また半分とどんどん時間がなくなってゆくわけや」
「ちょっと待てや。僕にも仕事や付き合いいうもんはあるよ。まあ君ほどでもないかもしれへんけど」
「まあそうやな。それでも家に帰ったら基本的には独りやろ」
「そりゃそうやけど、それがホンマにエエんかどうか、最近の自分にはようわからんわ」
「まあ結婚を考えとるときはそういうもんやろなあ」
「そういう君はいまは違うということかい」
「うーん、やっぱり自分の時間はないね。っていうか激減したなあ、独身のころにくらべて。家で好きなように音楽聴けるわけやないし自由にCDも買われへんし、酒飲むのもなんか気い遣うようになってしもたしなあ。。。」

この男の言いたかったことはもちろんわかりますし、似た様なことを言う人はほかにもいます。自分自身も結婚してしばらくしてから、そういうことを感じたことがないわけではないです。「結婚したら半分、子供ができたらさらにその半分」という表現は面白いと思いましたが、結婚はまあ大人どうしでやることですから、時間の過ごし様はいろいろなことを通じてわかりあったりできるもんだと思います。子供ができると確かにしばらくの間は一方的に時間がとられてしまうということはあるでしょう。それでもそれと引き換えにあることに大きな価値があるわけですから、それだけ時間を費やすということがつまり愛情を注ぐということになるんではないでしょうか。

しかしいくら時間があったとしても、やりたいことがなければ何にもうれしいこともありがたいこともないというのも事実です。時間がないとか言う人は、それだけ何かやりたいことがあるけどできないという人かもしれません。しかし一方で、やりたいと思うてるのが果たしてどの程度のもんなのか、これがわかっている人は意外に少ないのではないでしょうか。自分にはやりたいことがあるんだという人でも、1日2日ほどの時間ができる程度であればあれをやろうこれをやろうと思えても、それが1週間1ヶ月となってくるとだんだんとその人の信じていたやりたいことの底が割れてくるというもんだと思います。

このさき一生フリーやと言われて、ずうっといろいろな音楽を聴いていられたら楽しく過ごせるかと考えてみれば、たぶんそれは違うと思います。一方では、自分には他にもやりたいことがいろいろあるんだと感じているのも事実ですが、この先自分の時間はまだ無限にたくさんあるという実感は徐々に少なくなってきたように思います。もうそろそろ未知なるやりたいことを想定する年ではないのでしょう。

一つ言えるのは、何にもやらないでやりたいと思うてるだけではいつまでたってもそれは本当にやりたいには育っていかんということでしょう。その意味ではいろいろと手を出してみるのは絶対にええことだと僕は思います。毎日が充実していると感じている人は、特別な何かをやらなくても毎日の生活がその人のやりたいことというわけで、もしかしたら一番幸せなのはそういう生き方かもしれませんが、自分はまだそんなところまでは至っていないのでしょうね。

結局、自分はこの2日間いままでとあまり変わりなく、買い物をしたりラーメンを食べたり酒を飲んだり音楽を聴いたりして過ごさせてもらいました。まあいろいろと得るものはあったと思います。妻は予定通りに日曜日の午後に帰ってきました。2日間のことをいろいろと話してくれましたが、特に何か大きな問題があったわけでもなくお祖母さんとのお別れは無事にすませることができたようです。

寒い週末でしたが少し違った時間と空気のある週末でありました。

0 件のコメント: