2/09/2008

ザ グレート コンサート オブ チャールズ ミンガス

 久しぶりにミンガスの音楽をじっくりと聴いた。僕も一応ベース弾きだから彼のことは人一倍気にかかるし、彼の音楽について何らかの考えとか感想を持っていないとなあという気持がどこかにある。

僕はミンガスの音楽が大好きだ。彼のベース、作曲、アンサンブル、言動、そして人望。それらに存在する一貫性。音楽家に限らず有名な人の中には、絵に描いた様な一貫性(いわゆる「伝説」)で語られる例も多くあるし、ああいうものはある程度割り引いて受け止めることが必要だと思う。

ミンガスの音楽は、灰汁をすくう前の鍋の様なものである。表面に浮いている灰汁をどう感じるかでかなり好き嫌いがはっきりするのではないかと思う。僕はライヴ演奏にその醍醐味があると思っているのだが、ライヴの方がそれが強くなるのは言うまでもない。世に発表されている彼の作品にはライヴ盤が多い。そのことは僕と同様に灰汁の強いミンガス鍋のファンが多いことを物語っている。

一番の特徴はメンバーの間に醸し出されるある独特の空気感だ。インタープレイやソロ演奏が非常に大きな割合を占め、そこで発揮される高い音楽性に演奏者個人の能力だけでなく、グループとしてのパワーがみなぎるから不思議だ。それがミンガスのバンドマスターとしてのリーダーシップなのだろう。なのでそういうスタイルに慣れていないと、場合によっては何かバラバラに勝手なことをやっているように聴こえてしまうことになる。ミンガスの音楽をつかみどころがないと感じるのはそういうことなのだと僕は考えている。

そしてもう一つの魅力がミンガスの作品の「音楽臭さ」にある。彼の書く音楽はメロディ、ハーモニー、リズムという音楽の基本要素において、非常に強いダイナミズムと独自性がある。最初に書いた魅力とは裏腹になるかもしれないが、彼の音楽の音符に書き込まれている部分は極めて緻密である。そういう素晴らしい材料からいい旨味とたっぷりの灰汁が出る、それが絶妙のバランスをとって聴くものに示される。その灰汁をどう処理するかは聴く側の感性に委ねられる。

今回の作品は、1964年4月に行われたパリ公演の模様を収録したもので、かなり昔にLPレコード3枚組で発売されていた彼の代表作である。音源の権利をジャズレーベルのヴァーヴが買取り2003年にCD化された。僕も学生時代から存在は知っていたが、輸入レコード屋で見かけても値段が高いし、中古屋でもなかなかいい条件で巡り会うことがなかった。今回やっとCDで手に入れた次第である。

録音はモノラルだが僕が想像していたよりは音はよかった。従来未発表だった2つのトラックでは、マイクのセッティングを変えるときのノイズが入ったりするものの、演奏はどれも本当に素晴らしい。ミンガスやドルフィー、バイヤード等おなじみのメンバーのソロもたっぷりで、ライヴならではの楽しいパフォーマンスが次々に飛び出してくるのが痛快である。

アンサンブルが美しい"Orange was the colour of her dress then blue silk"では、楽しそうにベースソロをひくミンガスの声が微笑ましい。丁々発止のインタープレイが壮絶な"Fables of Forbus"、ドルフィーのアルトからチャーリー=パーカーの作品が次々に飛び出す"Parkeriana"等々、まさに名曲名演ぞろいの作品だ。

寒い冬でもこれを聴いていると身体の中まであったかくなるのだから不思議だ。ミンガスをこれまで敬遠していた方にもぜひとも聴いていただきたい作品である。

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