7/27/2008

ウィスキーと夏の夜

暑い毎日。忙しさも手伝ってただでさえ湿って重く感じられる空気が一層身体や意識にまとわりついてくる。天気予報では、「夕方雷雨が」などというのだが、結局僕の行動範囲である南東京と川崎の周辺ではそれらしいことは起こらなかった。いっそのことざっと一雨降ってくれれば家も少しは涼しくなると期待するのだが、雷様はここまでは来てくれなかったようだ。

先週の3連休も初日に妻の誕生日を祝って久々にフランス料理を食べに出かけたが、それに続く2日間は会社に出て、9時過ぎから夕方6時頃まで黙々と資料作りに明け暮れた。それでも出来上がったものはしょぼい内容で、案の定クライアント(といっても事実上の上司なのだが)のお目には適わなかった。発注側も少々混乱気味でこちらにも言いたいことはあるのだが、そこは我慢である。

少し余裕がなくなってしまったので、ウェブ媒体に毎月2本書いて連載を続けてきた原稿を、今月は1本で勘弁してもらうことになった。まあ本業の片手間ということなので仕方がない。お世話になている編集部の方々には申し訳ないと感じた次第である。

そういう状況の中、妻が2泊3日の出張で小豆島に出かけてしまい、せっかくだからとそのまま実家のある広島に帰ることになった。なので僕は今日の日曜日までの5日間、独り生活をすることになった。どういうわけか久しぶりにウィスキーをボトルで買って飲んでみようかなという気分になった。なぜか暑い夏にロックのウィスキーが飲みたくなる。

忙しいのであまり早く家に帰れるわけではない。でも久しぶりにオーディオセットの前で、夜中にグラスを傾けて音楽に耳を傾ける時間が持てたのはよかった。仕事の疲れも少しは紛れるというものだ。単に酔っぱらって眠りやすいというだけかもしれないが。

唯一、金曜日の夜だけは妻の会社の人で、以前からちょくちょく飲みに出かけている人に木曜日の夜中にメールをして、飲みに行くことにした。今回は中目黒の安いお店をはしごした。1軒目は有名な「大樽」の本店。店内は賑やかで僕の座った席は煙害の不運が付きまとうのがどうしようもなかったが、内容的には満足のいく超低価格である。いまどき熱燗1合が150円とは。。。

2軒目は以前行ったことのある沖縄料理屋に行こうと思ったのだが見つけられず、結局これも前から気になっていた串カツ屋の「串八」へ。カウンターだけのこじんまりしたお店だが、こちらもとてもリーズナブルで、しかも料理はおいしい。

2人でiPhoneの話から音楽の話になり、それから先はかなりディープな話を聞かせてもらうことにもなった。2軒で相当飲んだのだが、それでもお会計はあわせて1万円に満たないというのはすごいことだと思った。危うく終電を逃すところだったが、運良く事故か何かで遅れていたので、無事に家に帰りつくことができた。

週末は土曜日にゴロゴロして一日が過ぎてしまい、日曜日は少しまた会社に出かけて仕事をした。2時頃会社を出て川崎のラーメン店「花月」でにんにく入りげんこつラーメンを食べ、思い出したようにiPodとオーディオを接続するケーブルを買い求めた。案外便利なもので、もちろんCDよりは音質は劣るのだが、まあ昔のカセットテープなんかよりは全然マシだし、iPodを接続するだけで充電もできてしまうという使い勝手もいい。もっと早く買っておくべきだった。

帰る電車の中で、小学校3、4年生位の男の子の兄弟が向かいの席に座っていて、2人揃って縁日かなにかの金魚すくいで得た金魚の袋をいくつか下げていた。ところがそのうちの一つがどう見ても水が少なく、中の金魚が口をぱくぱくさせて苦しそうなのがなんとも見ていて気になってしょうがなかった。よっぽどどこかで水をいれてあげてと言おうかと思ったのだが、ぎりぎりのところでそこまで行動には至らなかった。あの金魚は無事に家について水槽にいれてもらえただろうか。

これだけではあまりに不健康だと思い、夕方になって雲がたれ込めてきていたが雨はなんとかもちそうだったので、ランニングウェアに着替えて近所の多摩川沿いで少しだけウォーキングをした。もちろん腕を振ってお腹にぐっと力を入れて黙々と高速で歩く運動モードである。本の短い距離と時間だったが、いい気分転換と運動になったと思う。

音楽については、そういうことなのでいつもより聴く時間は長く、いろいろ聴いた。書いてみたいこともあるのだが、今週はお酒モードということでお休みにさせていただきたい。先週ご紹介した「サイレンス」はやはりいい。もしかしてウィスキーを呼び込んだのはあのアルバムのせいだったのかもしれない。

7/19/2008

サイレンス

このところCDを買い控えていたようなところがあった。仕事は忙しく、毎日通勤で聴くiPodの音楽と、家に帰って少し飲むお酒が楽しみという一週間だったので、なんだかつまらんなあと思っていた。そこに少し前にネットで注文してあったデヴィッド=マレイとマル=ウォルドロンのデュオ「サイレンス」が届いた。

これはいい!素晴らしい作品だ。演奏はもちろんのこと録音も素晴らしい。マレイもマルもすごく近くで演奏してくれる。僕は冒頭のバラード"Free for C.T."でもう圧倒されてしまった。マレイのバスクラが静かに響き渡るこの心地、これはもう快感である。ちゃんとしたステレオセットを通して大きな音で聴くともっといいだろうなあ。

タイトルの通り演奏は比較的落ち着いた曲が中心。マルの特徴と年齢を考えればそれも納得できる。収録されたのは2001年の10月とある。場所はマルが住んでいたベルギーのブリュッセルである。マルが76歳でその地で亡くなったのは2002年12月だから、おそらくはこれが最後のスタジオ録音作品だろう。「モールス信号」などといわれた彼のピアノスタイルはここでもしっかり健在だ。

とりわけ素晴らしいのは4曲目の"I should care"。ここでのマレイの美しさはどうだろう。彼のことを「フリーの多作家」と片付けている人には、いますぐこれを聴いて改悛していただきたい。これにマイルスの"Jean-Pierre"が続き、楽しい和やかなセッションが展開される。この曲調からしてマレイがじっとしているわけがない。彼の暴走ぶりは聴いてのお楽しみだ。

ラストはマルのオリジナル"Soul Eyes"。コルトレーン初め多くの人が取りあげてきた名曲である。マルの短くも美しいイントロに続いてマレイのバスクラがテーマを歌う。かっこいい。そして続くソロがこれまた激しい。そしてメインを勤めるのはやっぱり作曲者だ。これがマルの最後の演奏かと思うとジーンとくるものがある。うーん・・・。

暑い毎日ですが、これはエアコンを効かせた夜の部屋でグラス片手にゆっくり聴くのもよし、暑い部屋で扇風機にあたりながら麦茶で聴くのもいい。とにかく悪いことはいいません。是非とも買って聴いてください。この夏の大推薦盤!


「サイレンス」

デヴィッド=マレイ (ts,bcl)
マル=ウォルドロン (p)

7/14/2008

あれから一年

この週末、父親の一周忌をお祈りするために和歌山に帰った。暑い日曜日、法事は無事にすんだ。前日には母方の親戚が一席持ってくれた。こうして親戚が集うのも、貴重な機会といえばそうかもしれない。

とにかく仕事が忙しく、いろいろな種類のやらないといけないことが積み上がっていて、気持ちに余裕が持てない。加えて、とうとう本格的な蒸し暑さがやってきた。開放的な格好で会社に行きたいところだが、やっぱりそうしたことがはばかられるというのは、なにがしか窮屈なものだ。

父がいなくなって1年。僕はこの間もやはり前に進んだと思う。何も変わっていないと嘆きたい気持ちもあるが、実際にはそうではない。ただ前に進んだはずの自分にはやはり満足というかどこか納得のいかない部分がある。

僕は何かをした様でもあるし、何もしなかった様でもある。そんなことを振り返ってもしょうがないのだろうと思う。ただもう少しじっくりと何かをやりたいのだろう。ある技にもっと長けたいとも思うし、人を育てたいとも思う。何かを持った人と出会いたいとも思う。そういう思いとは裏腹に、日々は過ぎてゆく。

しばらくこの余裕のなさが続きそうだ。

7/06/2008

ホワット アイ セイ

週明けの納期に向けた資料作りが佳境の最中、僕のデスクで携帯がなった。イタリアに住む知人からだった。仕事で東京に来ているのだという。滅多にない機会なので、木曜日のお昼を一緒に食べることにした。ちょうど頭の中も行き詰まり気味だったから、何かいい刺激にもなればいいと思った。

会社近くの駅ビルにある韓国料理屋で石焼ビビンバを食べ、その後、喫茶店(「ルノアール」である)でコーヒーを飲んだ。話はお互いの仕事のことを当たり障り内ない程度に交換し、欧州の景気とかアメリカ経済のこれからとか、一応ビジネスっぽい内容に発展しかけたが、やはりこっぱずかしくなったように、突然に自然な転換をみせてお互い大好きな音楽の話になった。

「最近、何聴いてるんですか?」の問いに答えるかわりに、僕はiPodを彼に手渡した。カバーフローに流れるジャケット写真をパラパラめくる彼の嬉しそうな反応を見るのは、僕にとっても楽しい光景だった。彼は最近行ったマンハッタンの話を聞かせてくれた。

それからは「ドルフィーは聴けば聴く程スゴイ」とか、「エレキマイルスはなぜいつまでも輝き続けるのか」とか、ヌルいコーヒーを挟んでそんな話が続いた。ほんの短い間だったが気分のいいひと時を過ごすことが出来た。彼は相変わらず溌剌としていたし、ご家族も元気だとのことだった。

いろいろと細かい仕事が重なってきて、なかなか一つの仕事にじっくりというわけにはいかなくなってきた。考えてみれば、本来はもう自分が何かを作るというような身分ではないのかもしれない。そう考えると、組織の中で人間の能力というのは、ある次元においてはきちんと粒を揃えておかなければならない。

今週はいわゆる「エレキマイルス」の傑作「ライヴ イーヴィル」をよく聴いた。なかでも、"What I Say"と題されたロックナンバーを何度も続けて聴いた。しまいには、本アルバムのオリジナル録音である「セラー ドア セッションズ」全6枚分をiPodに戻して聴き直したり、DVD「マイルス エレクトリック」のワイト島ライヴ映像を見直したりと、いつもの集中癖が出てしまった。

セラードアの"What I Say"は、「ライヴ イーヴィル」にも収録されたヴァージョンが最も素晴らしいが、この曲の魅力として、壮絶なディジョネットの8ビートの他に、キース=ジャレットの歪んだローズピアノ演奏が実にカッコいいということに気がついた。キースは途中何度も叫び声をあげているが、それもそのはずである。特にマイルスがテーマを吹くまでの出だしの部分で展開されるソロがやたらと素晴らしい。

今日は日曜出勤してしまって疲れたので、この辺でやめておく。


「ライヴ イーヴィル」マイルス=デイヴィス