2/24/2008

ジャズコーナーで会いましょう

 土曜日に春一番が吹いたらしい。春一番といっても今年のそれはちょっと不気味な嵐だった。昼過ぎまでは気温がぐんぐん上がりコートいらずの陽気になるかと思われたが、事前の天気予報で伝えられた通り、東京では午後2時を過ぎたあたりから急に北風が強まると同時に、気温が下がり始めた。

渋谷をぶらぶらしていた僕も、いろいろなCDやDVDに後ろ髪ひかれる思いを我慢して、そそくさと東急電車に乗り込んだ。車窓から去ってゆく渋谷の街を眺めていると、北の空に砂煙の様な雲が立ちこめているのがイヤでも目に入ってきた。その雲の暗さを見ていると確実に雨か雪が降ると思わせるものだったが、実際には違っていた。それは本当に砂煙を含んだ雲だったのだと思う。

自宅の最寄り駅を降りてみるとその雲がちょうど空の半分くらいまで覆いかぶさってきていて、自分のいるところがまさにそれに飲み込まれようとしているところだった。商店街を行く人も思わず足を止めて空を眺めている。数十メートル先の景色は砂埃にかすみ、路地を吹き抜ける風にも砂が混じっているように思えた。気温は渋谷で感じたよりもさらに冷たく感じられた。

スーパーで酒を買って足早に自宅に向かう。ちょうど北向きの路地を歩くのだが、行く先の空はいままで見たこともない異様な色の雲だった。吹き付ける風がこのところ穏やかで乾燥していた地面のあらゆる埃や砂を舞い上げた。それが大きくなってあの雲になったのだろう。

家に帰って洗面台で髪をバサバサとはたいてみると、白いシンクに砂粒がざらざらと落ちた。洗面所の窓を開けて出かけていたせいで、気のせいか洗面所の床がざらざらしているように思われた。その日の夜のニュースで知らされるまで、それが春一番だなどとは考えても見なかった。例年よりも遅いのだそうだ。

そろそろ花粉の季節でもある。気がつくと目の下が少し腫れているようだ。この季節になると先ず始めに目にこういう症状が現れる。今年はかなり飛散量が多くなるとの見通しらしいが、果たしてどうなることか。

本当の春が訪れる少し前のこの時期、どうにも気持ちがさえないことが多い。飛び始めた花粉に腫れる目しかり、期末が迫る仕事の重圧しかりというところだろうか。2月は街のいろいろな商売の人にとっても、一番入りが悪い時期なのだという。酒を飲むのも何か中途半端な感じだ。何か落ち着かないのがこの月だ。もっともそんなことをはっきりと感じるようになったのは、ごく最近になってのことだ。

このところ耳にする音楽はすっかりジャズづいている。そんななかでちょっと興味があって聴いてみたい音楽があったのだが、結局渋谷ではCDを買わずに家に帰ってiTunesのダウンロードですませてしまった。アート=ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの"Meet You at the Jazz Corner of the World"。日本語ではそのまま「ジャズコーナーで会いましょう」で通っている。なんともいい感じのタイトルだ。

お目当てだったショーターとモーガンによる2管フロントが素晴らしいのはもちろんだが、聴いてみてあらためて思うのは、ジャズメッセンジャーズというグループのまとまりの良さというか、安心感のような懐の深さが心地よいなあということ。

はっきりいって思わずドキリとするような超スリリングな瞬間とか、唖然とする様な凄まじさがあるわけではないが、タイトルにある通り、いつの時代でも世界のどこの国でもこの作品が流れていれば、そこが「ジャズコーナー」と呼ぶにふさわしいご機嫌な場所になるのだから不思議だ。もやもやした時期に聴いても変わることのないジャズの素晴らしさがしみじみと伝わってくる作品である。

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