3/30/2006

矢野沙織クインテット@六本木サテンドール

前回に続けて「3夜連続ライヴ」の2回目は、3月27日(月)の夜、六本木のジャズクラブ「サテンドール」で観た、矢野沙織クインテットについて。

矢野沙織は最近話題の女性アルトサックス奏者。1986年10月生まれというから若干19歳である。名前はCDショップでもらうフリーペーパーとかで目にしていたが、そんなに若い子だとは思っていなかった。初めて演奏を耳にしたのは、NHKの「トップランナー」に出演したのを観たとき。といっても、実際それも録りだめてあったものを、今回観に行くことになったので、予習のつもりで1週間前にチェックしたという次第。

長い休みの最中、一度だけ会社の同期仲間2人と、一杯やる企画があった。場所は、自宅から電車で3駅のところにある武蔵中原の「とんかつ武蔵」。この店はトンカツはもちろん、いろいろな料理がおいしいお店。値段は決してお手頃とはいえないが、その価値は十分にある。店が狭いのですぐ一杯になってしまうのが難だが、この日は運良く座敷の一角に陣取ることが出来た。

同僚の一人が、以前このろぐでもとりあげたサテンドールの常連で、僕がたまたま矢野沙織のライブがあるね、と振ってみたところ、その2人で観に行く予約をもう入れているとのこと。なんだ、じゃあ僕も行きたいと言ったら、その場でお店に電話して人数を変更してもらった。

おかげで当日はまたバンドの真正面のボックス席である。さすがに前回の渡辺香津美の時とは違って、店内は5〜6割程度の入りだった。まあこのくらいがちょうどいい。まだ始まる前のステージに目をやって、今回はトランペットも入ったクインテットだと知った。3ステージ制だったので開演は少し早めだった。

「トップランナー」で観た印象と少し違って、実際に観た矢野沙織は意外に大きな人だった。番組の時はアフロっぽいパーマヘアだったが、今回は少しウェーヴのかかったヘアスタイルで登場。トランペットも市原ひかりという女性だった。

この市原という人は、演奏が始まってから、もしかしたらそうかなと思ったのだが、途中演奏された彼女のオリジナル曲を聴いて、2週間程前に川崎駅前のショッピングモールで、休日のアトラクションで演奏していた人と同一人物だということがわかった。彼女もまだ23歳である。若い女性2人がフロントのジャズクインテット、現代という時を感じる。

演奏の方は、1950年代の割と馴染み深いジャズスタンダードを中心に、ときおり市原のオリジナル曲が演奏された。2人が交互にMCを務めながらの進行は、さながら大学の学園祭の様な雰囲気にも感じられ、ほのぼのとした感じだった。

矢野のアルトはテレビで初めて聴いた際に思った通り、(チャーリー)パーカー調のストレートなジャズ演奏である。メジャーレーベルからCDデビューしているだけあって、なかなかスムーズなソロをとる。市原の方も、指と唇がよく動いていて、なかなか流暢なソロを聴かせてくれる。例えるなら陽気な曲を演奏しているケニー=ホイーラーに似た感じだ。

しかし、やはり僕には2人ともジャズという意味では、まだまだこれからの人かなという印象だった。特に市原は、曲が進むに連れて音使いの単調さが気になるようになった。矢野はなかなか健闘していたとは思うが、やはりオリジナリティとかそういう意味では、まだかなり物足りない様に感じた。まあこんな娘が、往年のジャズのスタンダードを器用に「ジャズっぽく」演奏してくれるなら、おじさん達は大喜びなのだろうが。

途中、来日中のローリング・ストーンズのバックバンドとして来日中の、ティム=リーヴスという白人のテナーサックス奏者が紹介され、1stステージで「オレオ」、2ndステージで「バット ノット フォー ミー」に飛び入りした。僕は彼のことは全く知らなかったが、やはり本場で活躍するプロのミュージシャンらしく、ソロからはロリンズやコルトレーン、ショーター、ロヴァーノなどいろいろな人のスタイルの片鱗がきらめいて、なかなか見事な演奏だった。彼のソロには、さすがに若い2人もじっと聴き入り、時には感激を隠さなかった。このコントラストはなかなか面白かった。

結局、酒も飲み放題コースを選んだので、3ステージを通して楽しませてもらった。ただし3rdステージは、ティムも出なかったし、彼女達もかなり疲れてきたのか、内容は新鮮味に欠けた。それでも3ステージを通して演奏するパワーはさすがである。

バックを務めた3人の男性のうち、ピアニストはどちらかというとフロントの2人に近い世代の人で、音楽的印象も似ている。リズムの2人はもう少し世代が上で、こちらは堅実にしっかりとした演奏を聴かせてくれた。やっぱりベースっていいなあということを実感させてくれた。

まあ少し否定的なことも書いたが、全体的にはとても楽しめた夜だった。3ステージはあっという間に終わってしまった。常連客の彼が、ここで度々酒と音楽を楽しみに訪れたくなる気持ちはよくわかった。僕もまたちょくちょく訪れてみたいと思う。いい場所だ。

なんとか終電に間に合って午前様で帰宅した。翌日はオーネット=コールマン。いま考えればすごい続き方だ。でもいろいろ聴くのは面白い。生演奏は聴けば聴く程、自分でも演奏したくなるものだ。そう考えるとまた、やはりプロというのは凄いものだなと思った。

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