3/10/2006

デイヴ=ホランド「エメラルド ティアーズ」

 あるビジネス月刊誌から、連載記事を書いてみないかとのオファーをいただき、先月末の発売分から担当させてもらっている。4ページに5000文字と図表が2、3点。とりあえず半年6回分ということになっている。もちろん会社の仕事の一環である。

このろぐの他に、昨年から会社がやっている情報発信サイトでコラム的なブログを担当させてもらっていて、文章を書くのはだいぶん慣れた。しかし書けば書く程、自分の文章が嫌になる。変な言葉遣いのクセはなかなか直らないものである。

月に一回の連載というのは、ある程度覚悟していたものの、実際かなりハードである。なにせ普通に仕事をこなしつつ、たまに会社のブログを書いて、趣味とはいえ毎週このろぐも書きながらなのだから。それでもなんとか続いているのは、やはり下手でも文章を書くことを楽しめているからだろうと思う。

今月は連載の締め切りが、6日の月曜日だった。書く内容は大体決めていたのだが、仕事が忙しくて週末に自宅で書く短期勝負しかないかなと考えていた2日木曜日の朝、田舎の親父から電話があった。祖母が亡くなったとの知らせだった。この日は、僕の母親の命日である。

親父の母親で93歳だった。この数年間は寝たきりで、周りのことはほとんど認知できないという状況だった。72歳の叔母がずっと付ききりで看病してくれていた。この正月に訪問したときは、まだ手を握ったりすると、声をあげたりしてくれていた。それが祖母と会話した最後だった。

いろいろ考えることはあったが、ここに詳しく書くことでもないと思う。ともかく、通夜や葬儀やらのために田舎に帰ることになり、週末の予定は大きく変わった。原稿の締め切りを延ばしてもらい、週明けから会社で他の業務に並行して少しずつ文字を並べ、家に帰ってそれを文章にまとめる。そんなことを続けてようやく仕上げた。ろぐの更新が遅れたのはそういう事情である。

実は、今日から僕は長い休みに入る。会社の規定で満40歳になった次の年度に、平日連続7日間の休暇を取得することが決められている。結局、年度もおしせまったこの時期にそれをとることにした。21日祝日までの12日間連続の休暇である。

別に海外旅行に行くとかそういうことは何も考えていない。仕事がないというスペシャルな平日を楽しみたい。いろいろなことをやってみるつもりだ。先ずは遅れていたろぐの更新からというのは、休暇の始まりにはちょうどいい。

前回まで3回にわたってオルガンをとりあげて来た。あれは僕の音楽人生のなかでちょっとしたマイルストーンだった。これからもオルガンは聴いていくだろうが、今回は原点に戻るという意味と、祖母への想いも込めて、僕が好きなベーシスト、デイヴ=ホランドのソロ演奏作品をとりあげる。

この作品は全曲ホランドのベースだけ。二重録りなどの加工も一切ない。内容はフリーフォームなものから、フリー系の音楽家アンソニー=ブラクストンのコンポジション(作曲作品)、マイルス=デイビスの「ソーラー」など、多岐にわたっているものの、全編を通して彼のスタイルとポリシーがしっかり貫かれている。散漫や退屈は一切ない、スリルと緊張の連続である。前回までのオルガン即興と比較しても、なんらひけをとらない、彼独自の音宇宙だ。

僕もベースを演奏する。こういう作品を聴いていると、本当に音楽表現の奥深さを実感する。音楽に限ったことではないが、表現の本質は演奏する人の中にあるもの。動機が貧しければすぐに底が見える。技量は二の次だ。自分にとっての音楽は半端なものでは終わらせたくないという思いを新たにしたい。

Dave Holland 公式サイト

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