休みが終わって、水曜日から仕事に復帰した。まだ頭が本格回転ではないものの、12日間休んだところで、からだが仕事を忘れてくれるわけではないというのは、頼もしくもあり、どことなくもの哀しくもある。復帰して3日間はあっという間に過ぎ去った。
休みが残すところあと2日となった月曜日、前回のろぐで触れた愛用のベースを、調整に出すことにした。以前から少し気になるところがあった。あるポジションを押さえて弾くと音がビビるという症状だ。弦を張り替えたり、弦の高さを調整してみたりしたけど、どうしてもなおらない。
楽器はとてもデリケートなもの。エレキギターやベースの場合、ノイズが入るとかそういう電気系統の問題であれば、まだ自分で部品を交換するなどの対応をすることができなくもないが、音がビビるといった楽器本体の構造に関わる問題になると、これはもう素人が手出しするものではない。大抵は失敗に終わる。信頼できる職人に任せるのが懸命だ。
以前からいつか調整に出したいと思っていたので、ネットでそういう修理に対応してくれる工房を探していた。今回お願いすることにしたのは、東京文京区にある「ギター工房 弦」というところ。お店のサイトを見ていると、日々の作業状況を写真で掲載してくれていて、なかなか信頼感が持てそうだと思った。
お店は山手線の大塚という駅から歩いて10分程のところにある。平日の真昼間にベースを抱えて電車に乗って出かけた。東京で勤めるようになって18年が経ったが、この駅で降りたのははじめてだった。変化が激しい南側に比べ、山手線の北側、特に上野と池袋の間にある駅は、どこも落ち着いていてある意味懐かしい雰囲気を残した駅前風景である。
愛用のベースは、TUNEというメーカーのWBシリーズというもの。その名の通り、ウッドベースの表現を意識した作りになっている。お茶の水の楽器店で初めてこれを試奏した時、僕自身結構ピンと来て気に入ったのだ。しかし値段もそれなりに高価である。
自分がいま使っている楽器との出会いは、ちょっと気恥ずかしいところがある。実は僕はこの楽器をインターネットのオークションで手に入れた。通販で楽器を買うということ自体、相当抵抗はあるのだけれど、しかも個人から買うというのはかなりな冒険だった。いまから3年半程前のことだ。
「あーあ、WBがもう少し安く買えないかなあ」と思って、ダメもとでオークションを検索したところ、なんとそれがあったのだ。ほとんど奇跡的タイミングだと感じた。確か終了2日前くらいだったと思うが、まだ誰も入札していなかった。
出品者の説明では、楽器としての調子は非常にいいが、相当使い込んであるので見栄えという意味ではそれなりにキズなどがあり、そういう主旨を理解の上で入札して欲しいとのこと。この言葉が僕の決断を促すには十分なものだった。僕は4万円で入札し、無事それを落札することができた。
届けられた楽器は確かにかなりボディにキズがあった。でも音はまぎれもなくWBのそれだった。以来、僕は少しずつこれ自分のメイン楽器として手なずけてきた。ここ1年半くらいでようやくいい感じになって来たところだったのだが、そこで例の音のビビりが出始めたというわけだ。先の持ち主の時期から数えて、もう10年以上の期間が経過しているはず。なんらかのガタが来ているのだろうと思っていた。
「ギター工房 弦」はマンションの1階にあるこじんまりとしたお店。そこで事情を説明して15分くらい楽器をいろいろと診てもらった結果、原因がほぼ特定された。僕が考えていたのとは全然違うことが原因だった。そのあたりはさすが職人だと思った。
さて、それを修理するのに2万6000円位かかるとのこと。想定していた金額をかなり上回るものだったけど、それでこの楽器がまた生まれ変わってくれるならという気持ちで、思い切って投資することに決めた。ということで楽器は現在その工房で修理中である。出来上がりは月末。4月からは新しく生まれ変わった楽器と、前回触れた新兵器で、気持ちも新たにベースをやっていきたいと思う。
そんな訳で、今回もベースのソロ作品である。アンデルス=ヨルミンはスウェーデン出身のベース演奏者。北欧ジャズの大御所達のサポートを中心に活躍する彼が、ECMレーベルから初めて発表したソロアルバムである。自身の作品の他、シベリウスの賛美歌を元にした作品や、オーネット=コールマンの「ウォー オーファン」などをベースソロで演奏している。
いくつかのソロ演奏の合間に、ブラスアンサンブルの小品が挿入される構成になっていて、全体を通して北欧らしい静寂と優しさが伝わってくる内容。先にとりあげたホランドやヴィトウスに比較して、あまりベースに演奏に馴染みのない人でも、すんなりと入っていきやすく聴きやすい作品に仕上がっている。
忙しさばかりがつまされる時代、低音を主体とするスローな世界に、ゆったりと身を委ねるのもいいだろうと思う。僕もこういう表現を目指してみたいと思っている。
Anders Jormin アンデルス=ヨルミン公式サイト
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