先週、新宿での飲み会の際に幼なじみに待ち合わせ場所として指定されたのが、新宿タワーレードのあるビルの2階だった。
最近、ほとんどそういうお店に入ったことがない僕は、ちょっとした懐かしさのようなものもあり、待ち合わせの時間まであと10分ほどしかないのに、ビルの最上階にあるお店に足を運んでみた。
ちょうど気になっていた高柳昌行の作品「ソロ」が試聴機に入っていた。まあこういうお店の数少ない魅力はこういうところかなとか思いながら、僕はヘッドフォンを付けて流れてくる演奏に耳を傾けた。
相変わらずCDの帯には仰々しい宣伝コピーが付けられていた。どこまで深く考えられているのか、あるいは業界ノウハウのようなものの蓄積がなせる技なのか(おそらくそうなのだろう)、少なくとも興味を持って手に取った人をもう少し引き止めるような、何かうさん臭くもドロドロした印象を与える効果はあるようだ。
この時点ではこの作品と、Three Blind Miceレーベルから発売されていたソロ作品"Lonely Woman"との関係がよくわかっていなかったのだが、聴こえてきた音は紛れもないあの高柳だった。よく見ると収録されている曲も似ている。
演奏以外の何かがそうさせたのかもよくわからないのだが、僕は久しぶりにこういう大きなお店で国内盤の、それも新品のCDを、定価で購入した。ケチ臭いと思われるのは仕方ないが、僕の金銭感覚はそういうものだ。
この作品にいたる経緯は、CDのライナーとして文字にされている、収録されたライヴ演奏の前に、高柳自身が店内(横浜のエアジンである)の観客に向けて語った短い前置きで十分に説明されている。
もともとソロ演奏による作品についてかなり構えて考えていた高柳が、大病を患った後に、レコード会社からの勧めに応じてみる気になって作ったのが"Lonely Woman"だった。そしてその後、そのフォーマットによるライブ演奏を3回やるわけだが、その3回目にしてやっぱりこれで打ち止めにしておこうと決めて行ったのが、この「ソロ」に収録されている内容というわけだ。
そのことをCDの帯には「"Lonely Woman"の完成型」とか書いているわけだが、これは単に時系列のことを言っているだけであり、内容的な点ではもちろん、当の高柳本人も全くそのようなことを言っている訳ではないことは注意すべきである(まあどうでもいいことなのだが)。
内容は非常にユニークで完成度の高いギターソロパフォーマンスである。阿部薫と並んで日本の即興演奏を代表する偉大な人である。しかし、ここに収められている演奏は別に"Lonely Woman"の完成型ではなく、まあライヴバージョンという別テイク程度に捉えたほうがいい。
特に1曲目の"Lonely Woman"については、スタジオ盤との優劣をつけるのは難しいものの、僕としてはこのエアジンでの演奏の方は若干集中力を欠いているように聴こえる。
それ以降の演奏曲目については、パフォーマンスとしての一貫性という意味で、こちらの演奏にはスタジオ盤にはない魅力にあふれている。特にこのフォーマットでの高柳が出す独特のリズム感はやはりライヴパフォーマンスならではのものではないだろうか。
僕自身は、この一連のギターソロプロジェクトは、Action Directの様な無限の音世界の追求に際して、ギタリストとしての自分の原点をこのフォーマットで確認しておきたかったのではないかと勝手に感じている。
そして高柳自身も、Action Directの活動に本腰を入れるために、このプロジェクトには早々に見切りを付けたという訳である。それは悪くない選択だったのだろう。
おかげさまですっかり高柳ブームになってしまった。やっぱりこういう音楽は落ち着くものだ。
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