8/10/2008

エコー

8月8日の金曜日は会社の全社一斉休日だった。久々の3連休を楽しんでいる。

金曜日は予報通り東京はこの夏初めての猛暑日になった。せっかくの休みにもかかわらずなぜかじっとしていられない。日頃なかなかできない用事を済ませようという気持ちと、とにかく街に出かけてみたいと言う気持ちが入り交じる。

渋谷の証券会社に手続きをしに出かけ、その後、同じ筋にあるタワーレコードに立ち寄って、先週ガマンしたエレクトロニカ系のCDを買い付ける。その後、悪阻(つわり)がひどくて入院してしまった会社の同僚を見舞いに、恵比寿のとある病院へ向かった。

部下が入院したのでお見舞いに行かねばと、その程度のことしか考えずに教えられた病院に向かった。時間はちょうどお昼前、既に猛暑だったと思う。駅から10分程の道のりでは折りたたみの雨傘をさして歩いた。

病院はきれいな総合病院だった。受付で相手の名前を伝えたときに、自分が今日訪ねるのは産婦人科なのだということに初めて気がついた。本来の面会時間より時間がずいぶん早かったのだが、ナースセンターで相手の名前と僕の身分を伝えると、そこにいた看護士が本人に確認してくれ、産科病棟のロビーまで出てきてくれたので、なんとか面会は成立した。

新生児室とかは興味深かったが、他の妊婦さんが通路を通るたびに興味深げな視線を向けてくるので(当たり前だろう)、ちょっと不思議な居心地だった。当の本人は点滴をつけていて少しやせていたが、話をしたりするには何も問題はない感じだったので、僕はひと安心した。

生まれたばかりの赤ん坊の泣き声のする病棟を後にした。エレベータホールの近くできれいな女性が、何か不思議な仕草の体操をしている横でずいぶん長くエレベータを待った。外の日差しはさっきよりもいっそう強く僕を迎えた。

この日、妻は出勤で近々退職する同僚の送別会もあって帰りが遅かった。なので家でウィスキーを飲みながらステレオセットで先週から買い込んだ音楽を聴いた。今回はそのなかから特に気に入った1枚を紹介しておく。僕が大好きなピアニストのポール=ブレイと、富樫雅彦のデュオを収録した「エコー」である。

1999年にブレイが来日した際に企画されたこのセッションは。横浜のみなとみらい小ホールで収録されたもの。おそらくは観客なしのレコーディングセッションだと思われる。

この2人の音楽についてある程度知っている人からすれば、非常に魅力的な組み合わせに映ると感じることだろう。内容はその期待を十分超える素晴らしいものである。いちいち楽曲の解説はしないが、セッションに至る経緯がライナーにあってとても興味深い。

自分が音楽を演奏するなら、一番挑戦してみたいのはこうしたスタイルのものだと思う。それぞれの心あるいは身体の中にある音楽を、既存の楽曲によらずに自由に楽器を通して表現する。楽器を演奏する本当の目的とはそういうものだと思う。

もし既存のものを演奏するのなら、いまの僕にはジャズは難しすぎる。ロックとかブルースとか、ヴォーカルが入った(これも気に入った相手が見つかればの話だが)小編成のシンプルなものをライブ中心でやってみたいと思う。

この作品の魅力は、音色のニュアンスを十分に含んで表現される2人の演奏が、互いに呼応しあいながら展開されてゆく、その空間表現とでもいえるものである。何かの時にも書いたかもしれないが、演奏される内容はとてもヴィジュアルな表現を僕に感じさせる。ホールの残響はそのキャンバスとして素晴らしい役割を果たしている。


Paul Bley / Masahiko Togashi
"Echo"

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