5/17/2008

五月の病

物事が上手く進んでいる実感がなく、不安や心配が先行する一週間だった。電車の中で放映されているテレビ(映像と字幕だけでも情報は伝わるものだが、画面でキャスターが話す顔を映す必要はあるのだろうか)で、五月病について解説するのが目に入った。僕は以前からこの病気には馴染みがある。といっても、毎年5月になると必ずというわけではなく、発現頻度はそう多いわけではない。いまから考えたら、それが何かの転機か、あるいはその後に続く自分の生き方に対する何かのサインだったように思える。

僕は入学してすぐに大学に対する興味を失った。もともと興味を持っていたのは大学の名前や学科のお題目だけで、そこで実際に何が行われるかについては、それはきっと立派な何かがあるに違いないと漠然と考えていただけだった。それがそうではないということがわかり、僕はそのまま五月病みたいになって大学に行かなくなってしまった。それ以降、大学は僕にとっては学び舎ではなく、家庭教師のアルバイトをするために自分の肩書きを提供するだけのものになった。

それでも大学を出て行くわけでもなく、留年しても卒業だけはしたいと思った。いまにして思えばなんと呆れた考えかと思うばかりだが、その考えや行動原理がいまも自分の中に引き継がれているのはほぼ間違いない。ああ自分は何につけても一貫性はないし、独自性もない、ホントにダメなやつだなと思い始めると、これが自分の中を埋め尽くそうとどこまでも広がってゆくように思えて、大きな空洞になって心の中に居座るのである。

自分を変えたいのか、自分の周囲の環境なり状況を変えたいのか、それもはっきりしない。ただ自分はもう変らないだろうという思いについては、ある種の確信に似たものがあるから、周りを変えようという気持ちが一時的に強くなる。しかし周りを変えることはすぐに自分にまた跳ね返ってくることになるから、ことは「気分転換」と簡単にいう程には進まないのである。だからこれはしばらく続く病気なのだ。

水曜日には翻訳会社に勤める幼なじみと自宅近くの新丸子で酒を飲んだ。不登校で中学卒業が危ぶまれた娘さんは、その後なんとか高校に通っているらしい。これには彼も一安心しているようだ。その夜は特に目新しい話題を交わすわけでもなく、新しいお店に行くわけでもなく、それでも僕らにとってはちょうどほどよい時間が過ぎて行った。

初夏の気候が戻った土曜日。以前、兄がやってきたときに鎌倉の街で偶然見つけた彼の御用達の鞄屋「土屋鞄製造所」で、カタログをもらっていた。妻がちょうど財布を買い替えたいと思っていてその店の品物が気になるというので、足立区西新井にある工房と店舗をかねたところに出かけることにした。

日暮里駅から舎人ライナーを乗り継いで西新井大師西駅で下車すると、すぐのところにそのお店はある。広々とした店内に同店の商品がきれいに展示されてある。お目当ての財布はたまたま店頭に展示された現品1点を残すのみとなっていて彼女はめずらしく早い決断でそれを買った。他にもいい鞄がいくつかあった。この商品についても僕の関心はやはり男性ものより女性ものに向いてしまう。

その後、西新井大師に行く途中、腹がへったので大師の裏にある小さな中華料理屋「餃子王」に入った。狭い店内の半分が座敷で半分がテーブルというやや不思議な空間、僕らは迷わず座敷に陣取った。メニューは驚く程たくさんある。お店の名物ということで担々麺、焼餃子、そしてエビチャーハンを注文した。料理はどれもうまかったがやはり店名の餃子はさすがの味だった。店内に張られた中国の地図をみると、お店の人はおそらく中国から来られた人なのだろう。四川のご出身なのかなあなどと震災のことが少しなった。

西新井大師を少し散策して、そこからはいつものように少し歩いてみることにした。結局、荒川を渡って王子駅までの約4キロ程を歩いて、あとは電車に乗って川崎まで帰った。途中の景色や街並にはひかれるものは何もなかった。北東京の何ともいえない雑然としたコンクリートのイメージが続いただけだったように思う。

週末は少し原稿書きをしなければならない。本当はもう少し早く出さないと行けないものなのだが、なかなか手を付けられないのと編集者との連絡が不通にになってしまったことも手伝って延び延びになってしまっている。もう今回でおしまい、といわれても仕方ないかなとも思っているが、やはり気持ちのスランプというのは恐ろしいものである。書く内容はだいたい決めているので、明日は頑張って仕上げたいと思う。

少し前に注文したCDのうち、先月の終わりに取りあげたJasper Leylandの2枚が郵送されてきた。素朴な音をさりげなく緻密に組み上げる感じで、彼が持つ才能を改めて感じさせるものだった。いまの僕の気持ちがここに現れている、聴いていてふとそんな気がした。

土屋鞄製作所
Jasper Leyland

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