5/11/2008

ジュウェル イン ザ ロータス

連休明けの3日間は意外にもすんなりと仕事モードに戻ることができた。大した仕事があったわけではなかったし、3日間勤めればまた週末というのも気分的に楽だった。外出して、セミナーなど人の話を聞くことも多かった。なかでも、マーケティングの業界団体が主催したインドの消費市場に関するセミナーは非常に興味深いものだった。

インド市場の急成長と将来性についてはいまさらながらの話題かもしれないが、では彼等の現代社会がどのようなものでライフスタイルがどうなっているのか、ということについてまとまった話を聞くことができる機会はこれまでなかった。現在のインドは自国の将来に世界で最もポジティブな国なのだそうだ。

今後数十年間で最も大きく変貌する国であるといわれているインドや中国であるが、大きな流れとして日本が戦後数十年でたどったのと同じ様な道を、あわせて20億の人口がいる2つの大国がたどるのかと思うと、地球の将来は明るいのか暗いのかますますわからなくなってくる。成長とはそういうものなのかもしれない。

その翌日の木曜日、別のセミナーというか研究会の様なものに参加するために地下鉄に乗った。車両に乗り込むと、優先席付近の一角だけ妙に人がまばらになって席が空いている。何かあるなと思ったのだが、別に異臭などもしないので空いている席に座ることにした。その空間の原因は僕の真向かいに座っているヘッドホンをした初老の男性にあるらしいことはすぐわかった。

この男性、よく通る声で次の3つの言葉をランダムに繰り返す。「おいコラァ」「バカやろう」「オマ○コ」。語調がちょっとヤクザっぽくて威圧感があるのとその内容に対する一般的な嫌悪感、この2つを気にしなければそこに座っていることはさほど苦痛ではない様なので、僕はこの男と5、6分間ほど向かい合って地下鉄の道中をともにすることにした。

こういう人の多くがそうであるように、彼は誰とも目を合わせようとしない。目に見えぬ誰かに語りかけているというよりは、人と目を合わせることができないのだ。3つのワードはひたすらランダムにいろいろな方向を向きながら発せられ続けたが、芸術性のかけらを感じることもなく僕は目的の駅に着いた。車両を降りたあとでも背後でそのパフォーマンスは続いていた。

週末はこれまでとはうってかわって急に冷え込んだ。あいにくの雨模様となった日曜日は特に寒かった。我が家でも仕舞いかけていたオイルヒーターを久々につけて部屋を暖めた過ごした。少し前に衛星放送で放映されて録画してあった映画「砂と霧の家」を視た。内容も何も知らずに録画してあったものだが、とてもいい作品だった。いわゆる9.11の直後にこのような作品が発表されているあたり、一見すると単純な娯楽ものばかりで嫌気がさしていたアメリカ映画も、まだまだ捨てたものではないと思い直させてくれた。

今回は少し前に購入したECMの復刻CDを紹介しておく。ベニー=モウピンといえば、マイルスの「ビッチズ ブリュー」でバスクラを吹いている人であり、リー=モーガンの「ライヴ アット ザ ライトハウス」でサックスを吹いている人でもある。その彼が1970年代半ばにECMに録音した作品がCD化された。

共演がハービー=ハンコックやバスター=ウィリアムスというのも意外な感じであるが、内容はこのメンバーから想像されるビートに溢れた音楽ではなく、非常にECM的な空間や音響の世界に仕上がっている。タイトルに表わされるように収録された作品はいずれも神秘的な輝きに満ちていて、じっくり耳を傾けると何か精神的なインスピレーションを与えてくれそうな気がする。

ジャズにエレクトリックの嵐が吹き荒れたこの時代に、ヨーロッパ人によるプロデュースでこのような作品が残されているというのは驚きであり喜びでもある。


Bennie Maupin ベニー=モウピン公式サイト

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