12/02/2006

スタン=ゲッツ「ピープル タイム」

 12月に入った。今月はいろいろと酒を飲む予定が入っていて、ほとんどがとりあえず「忘年会」という名目になっている。大人数が集まる宴会やパーティもいくつか予定されているし、少人数での約束も既にいくつか入っている。昨日の金曜日、会社の同僚2名とこじんまりと銀座にあるバー「Wisky's」で一杯やり、今年の忘年会シリーズがスタートした。

このバーは、1、2年前にある知合いの人に連れて行ってもらったのが最初だった。サントリーが日比谷から銀座にかけて十数件を展開するチェーン店のバーのなかでも、店名の通り特にウィスキーへのこだわりを看板にしたお店である。僕はウィスキーが好きな人と飲みにいく際に、何度かこのお店を使っている。と思ったら、前回行った時から既に1年と少しが経過していた。早いものだ。

実はこのところ、家でも少しウィスキーから遠ざかっている。家にボトルがあるのは幸せだが、どうしても少し飲み過ぎてしまう様な気がして、最近は自主的に少しお休みすることにしていた。しかも近頃お気に入りのウィスキーは、サントリーのものではない。そんなわけだから、妙に新鮮な気分で僕は店の階段を降りた。

久々にお店で飲むウィスキー。最初は、ここの名物であるウィスキーを炭酸系で割ったカクテルで飲み始める。それを2杯やった後、安めのウィスキーをソーダ割と水割りで1杯ずつ。同僚達との話も弾むなか、ようやく調子が出てきたところで、サントリーの看板商品「響」の17年をロックで1杯、2杯と飲み進める。量が少ないのが少し気になるところだが、やっぱりウィスキーはいい。薄暗いと感じた店内の景色が少しずつ明るく見えて来る。バーで飲む時の独特の酔い方である。

この店のおつまみは、チェーンのなかでもここだけが厨房に持つ燻製器を使っていて、なんでもすべてスモークされて出て来る。昨夜はお通しが蓮根の燻製、あとは豚トロ、牛タン、鳥の照焼、マグロのトロ、イベリコ豚等々と、次々にスモーク料理が立ちのぼる。どれもとても美味しいのだ。7時過ぎに始めた宴もあっという間に時間が過ぎ、気がつくとお店も超満員である。師走の最初の夜はいい感じで過ごすことができた。

今日は近所の美容院に出かけて、髪を切って色を染めてもらった。このところいつも僕の方からご指名でお願いしてきたスタイリストの女性が、今回も担当してくれたが、帰り際にお金を払う段になって、実は今月一杯でお店を辞めることになったのだと告げられた。美容師をやめるわけではないらしいが、詳しいことを聞ける状況でもなかったので、簡単にお礼を言ってお別れをした。

12月は何かと節目を迎える人も多いのだということを思い出しながら、僕はお店を後にした。美容院に限らず、日常でお世話になるいろいろなお店で馴染みに人は多いが、そういう人との別れというのは、大抵こういう形で突然やって来る。せっかくお馴染みになったところだったので、少し残念で寂しい気持ちになった。

髪はすっきりしたが、なんとなく気持ちはすっきりしなかった。家に帰って久しぶりにスタン=ゲッツの「ピープル タイム」を聴いた。この作品はゲッツ最後の演奏記録である。場所はコペンハーゲンのカフェモンマルトル。晩年にゲッツと多くの共演をしたピアニスト、ケニー=バロンとのデュオ演奏がCD2枚に収められている。

ゲッツは非常に長いキャリアを持つサックス演奏者である。特に有名なのはハードバッパーとしての1950年代、そしてボサノヴァイヤーズと呼ばれる1960年代のブラジル音楽と共演した一連の作品があるが、1980年代から亡くなる1991年までの晩年の演奏も素晴らしいものが多い。僕が一番好きなのはこの時代、なかでも一番のお気に入りがこの作品である。これも購入以来、何度聴いたことかわからない。ここに収録された演奏は寂しい時、疲れた時、落込んだ時、いろいろな人間の心を癒してくれる素晴らしい力を持っている。

そして、普段はジャケットやライナーノートはどうでもよくて、演奏内容だけで作品を判断すればいいと考えている僕だが、このCDのライナーノートにケニー=バロンが寄せている、ゲッツの想い出を綴った文章は数少ない例外だ。僕はこれを読む度に、人間が人間らしく生きるということについて、何か変な意味で楽観的な気持ちになる。もちろん音楽の道での厳しい生き方をしたゲッツだからこその話ではあるのだが。詳細はここに書くことはできないので、是非ともお読みになることをお薦めしたい。

いよいよ寒さも本番である。今年は景気の良さを反映してか、銀座に限らず年の瀬の街はどこも賑わいを見せている。そんな忙しさのなか、新しい生き方への準備を進める人もいる。僕にとってのそれは、まだ見えそうで見えない。動き出せずにいるうちに、このまま足下が凍りつくのだろうか。

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