結婚した年に自由が丘の雑貨店で買ったクリスマスツリーを、今年も押入れから取り出して食卓に据え付けた。高さ40cmほどの模木にいくつかの小さなオーナメントと、10球足らずの簡単な電飾が巻付けてあり、コンセントにつなぐと緩く点滅するようになっている。別にどうという程のものではないのだが、この点滅の間隔に慣れ親しんでしまったのか、これを眺めていると妙に落ち着く。
会社からはありがたいボーナスが支給され、職場の忘年会もなんだか趣旨がよくわからないまま終了した。来週は出向元の職場の忘年会と、妻の会社を経営する社長宅で開かれる、恒例のクリスマスパーティが続く。仕事には妙に緊張感がない。時節的なものというより、僕の内面的なところから来ているように思う。
まだ冬本番というのには早いとは思うのだが、どうも気候がしゃんとしないと言うか、冬というには暖かい日が続くように思う。もちろん過ごしやすいに越したことはないのだが、外に出てみて「あれ寒くないや」と拍子抜けするのは、どこかありがたくない。僕は気候にまで当たっているのだろうか。
週末。土曜日は久しぶりに一歩も外出することのない一日だった。冷たい雨がほぼ一日中降った。最近取寄せたあるCDをじっくりと家で聴いた。まだ自分のなかには馴染んでいないので、この作品についてはまた近いうちにご紹介しようと思うが、やはり何か忘れがたい印象を人の心に刻んでいく音楽であるには違いない。
日曜日の今日は川崎の街まで出かけ、タワーレコードでCDを2枚買った。今日はそのうちの1枚を取り上げようと思う。「銀界」と題されたこの作品は、尺八の巨匠で人間国宝の山本邦山が、ジャズのフォーマットで自身の世界を表現したものである。共演は、ピアノに菊地雅章、ドラムに村上寛、そしてベースがゲイリー=ピーコックである。録音は1970年とあるからいまから36年前ということになる。
この作品は長らく入手困難になっていたものを、タワーレコードが"TOWER RECORDS VINTAGE COLLECTION Vol.3"として独自に復刻しているシリーズの一つとして、先頃CDで再発されたものである。少し話はそれるが、ここ2、3年、クラシック音楽CDの世界を中心にタワーレコードが取組んでいる名盤復刻は、なかなか素晴らしい業績を残していると思う。
山本邦山氏とこの作品が生まれるに至った背景については、LPレコード発売当時に本多俊夫氏が綴った名文がライナーとしてそのまま掲載されているので、作品に興味を持った方は是非とも買い求めていただいて、そちらをお読みいただきたい。非常に優れた解説だと思う。
作品は、
「序」
「銀界」
「竜安寺の石庭」
「驟雨」
「沢之瀬」
「終」
と題された6編からなる音楽で、本多氏も書いている通りこれらは一連の組曲を為している。
演奏内容はそれはそれは非常に素晴らしく見事なものである。当時のキース=ジャレット等がクァルテットで展開していた作風に共通するものが感じられるが、あくまでも主役である尺八が中心の和の世界に、ジャズというスタイルを合わせた独特の音楽世界を展開している。菊地、村上、そしてゲイリー=ピーコックという脇役は実に見事なキャスティングだ。
僕は決してレコードマニアではないし蒐集家でもない。ただ聴きたいと思ったものを買っているだけだ。でも僕は、安いということだけが購入の動機になってるなと自分で直感するものは、なるべく買わないようにしている。最近、著作権の切れた音源を中心に、過去の古い音源を安いBOXセットで提供する企画が珍しくないが、ああいうものにはなるべく手を出さないのが無難だ。
CDやDVD時代になって現れた「未発表テイク」とか「ディレクターズカット」と呼ばれるものは、資料としての価値は認めるが、あくまでもオリジナルからは捨てられたもの。もちろん例外はないわけではないが、現代よりも当時の方がよほど判断のセンスに混じり物は少ない。なので、それを本編に混ぜた形で提供して、付加価値があるように見せるやり方はどうも感心できない。
それよりもこうした企画のように、リリース当時のままの形で、求めやすい価格で復刻されることは非常にありがたいことである。今回同時に復刻された他の9作品もなかなか魅力的なものばかりで、値段が安いのでついつい欲しくなってしまう。とりあえずペンデレツキの作品だけは、無くならないうちに買っておこうと思っている。シリーズの詳細はタワーレコードのクラシック音楽のコーナーに掲載されている。
とにかく素晴らしい作品。これに巡り会わせてくれた企画に感謝である。
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