年末になって舞い込んだ突然の訃報。ギタリストのデレク=ベイリーが亡くなったそうだ。享年75歳。是非とも一度、生演奏を鑑賞したいと望んでいたのだが、かなわなかった。残念。
デレクの名を知ったのは、阿部薫のことを知るようになってからだった。僕がはじめて聴いた阿部のCDにギター演奏が含まれていた。その解説にデレクについて簡単に触れられていて、興味を持ったのだ。
この手の人の作品は、なかなか入手が難しい。「ロングテイル」を謳うアマゾンでさえ、彼の代表作である今回の作品は、既に中古品のみでの取り扱いになっている。東京近郊にお住まいの方なら、ディスクユニオンが一番確実だろう。大手のCD販売店でも置いてあるところは限られると思う。
彼の演奏は明快だ。単なる即興というだけなら、ジャズやロックなど既存の音楽スタイルでやればいい。彼が目指したのはそういうことではなかった。デレクの著作「インプロヴィゼーション」(写真右)を読めば、そのことは一層深く理解できる。「音楽の始まりはすべて即興演奏だった」。彼はその意味での原点にこだわった。プロのギタリストとして活動している最中に、これはなかなかできることではない。
彼の音楽は決して「孤高」ではない。それは彼の残した演奏記録の多くが、様々な演奏家たちとの共演であることからも明らかだ。アンソニー=ブラクストンやセシル=テイラー、バール=フィリップス、トニー=オクスリー等、専ら即興演奏の世界に生きている仲間たちだけでなく、デイヴ=ホランド、パット=メセニーそして最近ではデヴィッド=シルヴィアンなどとも作品を残している。
デレクは、それほど多くの芸術家のクリエイティヴィティを刺激する存在だった。また幅広く音楽を捉えようとする、僕のような聴き手にも、聴くことの奥深さを教えてくれた人だったと思う。
彼は(当然のことながら)自分の演奏を録音することには無関心であったが、幸いにも、多くの作品がマイナーレーベルのカタログにいまもしっかりと残されている。僕も割りといろいろともっているけど、やはり彼の訃報に触れて、一番聴きたくなったのは、今回の作品だ。
ここで彼は、インプロヴィゼーションとコンポジションの両方を演奏している。初めて耳にされる方の多くの感想が「?」だと思う。怒りだす人もいるかもしれない、笑いだす人もいるかもしれない。僕もあっけにとられる間に時間が経過した。
それでも、不思議な感想が心に残る。「いまのは何だ?」。これをギター演奏というのであれば、自分のなかのギター演奏の意味を変えなければならない。それをするのは簡単なはずなのだが、ただ聴いているだけで演奏者でもないくせに、そういう心のスイッチを切り替えるのは意外に難しいのだ。
でもあまり難しく考える必要はない。「もう一度聴いてみよう」。それでいいのだ。彼が教えてくれたのはそういうことだ。
さよなら、デレク。
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