12/11/2005

キース=ジャレット「チェンジズ」

 先々週の疲れが出たのか、この1週間は風邪とともに暮らした。それはちょうど月曜日あたりから僕の身体に現れ始め、翌日にはピークに達した。熱も少しあっただろう。でも会社を休む程までには至らず、なんとか7日間で終息したようだ。

病はもちろん嫌なものだが、あとから考えるとその期間、自分の意識が妙に前向きと言うか、実体を伴えない形であるにせよ意欲的になっているのも事実。これが治ったらしっかり身体を鍛えようとか、しばらく読んでなかった本でも読もうかとか、いつもそういうことを考えてしまう。

それが一過性のものなのかと言えば、必ずしもそういうわけではないと思う。そうしたことを契機に、何か新しいことを始めるようになったこともなかったわけではない。そう言う意味では、病という谷は、一時的なものである限りにおいては、人間にとって必ずしも不要なものではないと思う。ちょうど世の中の景気といわれるものが、そうであるように。人や社会はそこで学ぶことが大きい。

風邪をひいた時、何が辛いかと言えば、やはり酒が飲めないのが一番辛い。少しでも良くなってくると、アレを飲もうかとかいろいろと考えてしまう。昔から病には卵酒だの、焼酎のお湯割りだのと、薬代わりに飲む酒の話があるが、やはりどれもあまりいいものではない。特に喉や鼻にくる風邪にアルコールはまったくもってよろしくない。

今回はピークを越えた水曜日頃から無性に熱燗が飲みたくなった。しかしそこは我慢した。金曜日に会社の同僚3人で小さな忘年会があったのだが、なかなか悪くないお店だったのだけど、やはりまだ鼻が詰まってしまっていて、他の2人が「うまいうまい」と絶賛するお魚料理(ノドグロという高級魚も出たのだが)も、正直言って歯ごたえから味を想像するのみという、空しい結果になってしまった。それでも1週間ぶりに飲んだ熱燗はやはり旨かったが。

今日になってようやく鼻水から色も消え(失礼)、食べ物の味もわかるようになってきた。ちょうど妻の実家から送られてきた荷物のなかに、琉球泡盛の古酒が入っていたので(義父がゴルフの賞品でもらったものらしい)、これを書いたらちょびっと楽しんでみようかと思う。

さて、そんな調子でももちろん音楽は聴いていた。よく聴いたのがキース=ジャレットの「チェンジズ」。この作品は彼の一連のECM作品のなかでも、あまり目立たない存在であるが、僕は大好きな作品である。

この作品は1983年の1月に、ニューヨークで録音された。メンバーはゲイリー=ピーコックとジャック=ディジョネットという、いまとなってはお馴染みのトリオ。同じ時期にあの「スタンダーズVol.1,2」が録音されたことからもわかるように、この作品はあのトリオの記念すべき第一弾である。実はこれに先立つこと6年前の1977年に同じメンバーでゲイリー名義の作品「テイルズ オブ アナザー」が録音されているのだが。

このピアノトリオが現在のそしてジャズの歴史のなかでも、最も優れたユニットの一つであることには、僕も十分同意できる。一方でピアノトリオの代表として必ずあげられるものに、ビル=エヴァンスのリヴァーサイド時代の黄金トリオがあるが、彼等の4作品(詳しくはこちらを参照されたい)に相当する、このトリオの作品が、今回の作品を含む最初の4作品(「チェンジズ」「スタンダーズ第一集」「同第二集」「スタンダーズ ライヴ」)であると僕は思っている。

収録されているのは全曲キースのオリジナル。なじみの名曲を演奏したものではない。当初「スタンダーズトリオ」などと称されたこともあったが、最初のセッションに本作のような作品も含まれていたということは、彼等自身にスタンダーズトリオなどという意図があったわけではなかった。あくまでも単なる企画だったのである。演奏内容については言うまでもない素晴らしさである。心地よい緊張感と美しさ、それがこのグループの醍醐味である。

僕はやはり、彼等がスタンダードをどう演奏するのだろう、というのよりも、オリジナルでどんな音楽を演奏するのだろうという方が、はるかにワクワクしてしまう。その意味で、それら4作以降次々に発売されたこのトリオによる演奏のなかで、ほぼ全編が即興演奏で構成された「オールウェイズ レット ミー ゴー」を僕が好むのはおわかりいただけると思う。スタンダード演奏は最初の3作で十分目的を達していると思う。

この作品が、スタンダーズ集よりも先に発売された時、スイングジャーナル誌で紹介されたこの作品に、評者として参加していた後の新生ブルーノートレーベルの主マイケル=カスクーナ氏が、星2つ(=平凡)をつけていたのを思い出す。確か「前向きな取り組みもなく、キースの音楽の問題点が露呈」と書かれていたと思う。音楽に限ったことではないけれど、世の中は将来に向かって動いている。倉庫に永くいてはそのことがわからなくなってしまうのだろう。

これから年末に向けて、まだ少し片付けないといけないこともある。これ以上体調を崩さないように頑張りたい。

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