このところ週末の空模様がよろしくない。これを書いている今日も雨。先週も3連休だというのに、天気が悪かった。仕方ないので、そろそろ長くなってきた髪を切ってもらいがてら近所の武蔵小杉まで出かけて、どうしても気になっていたCDを、イトーヨーカドー内のCDショップで購入(商品券が使えたので)。その帰りに、DVDをレンタルして自宅で観賞した。両方ともなかなか内容が興味深かったので、今週は秋の豪華版(?)ということで、その2つを一遍にとりあげてみたいと思う。
上原ひろみは最近話題の女性ジャズピアニスト。僕は、昨年の夏の「東京ジャズ」に出演した時の模様を、秋に放映されたテレビで観て彼女を知った。印象に残ったのは、見事なテクニックやアコースティックピアノのうえに置かれた真っ赤なノードリード(シンセサイザー)、そしてなによりも本当に楽しそうに演奏する屈託のない笑顔である。最近では、NHKの「トップランナー」にもゲストで出演し、自身の生い立ちや考え方などを語りながら、自分のグループで3曲ほど演奏を披露した。
「アナザーマインド」は2003年に発売された彼女のデビュー作である。テレビを観て興味を持った僕は、先ずこれを聴いてみようという気になった。ジャズを中心に優れたミュージシャンを輩出しているバークレー音楽院の作曲科を首席で卒業したという人らしく、このアルバムは全曲彼女のオリジナル曲で構成されている。
内容は、僕にとっては必ずしも全部が素晴らしいという印象ではない。冒頭の「XYZ」などトリオ編成の演奏は素晴らしい。彼女の作曲の才能は、これまでに彼女が接してきたと思われる様々な音楽の影響が、やや直接的に出ているように思えるという意味で、ユニークさという点でいま一歩かもしれないが、オリジナリティは確かに優れている。
聴いてみて不満な点もある。一番の疑問はなぜトリオ編成で通さなかったのかということ。2曲目の「ダブルパーソナリティ」は彼女らしい作品だが、アルトサックスとギターが参加する必然がいま一つ感じられない。続く「サマーレイン」もやはりサックスがフィーチャーされるが、あまりに安易な印象を受けてしまったのは僕だけではないと思う。
アマゾンのレビューでこのアルバムについて「ゴルフ場のロビーで流れている様な音楽」と酷評した方がいらっしゃったが、それは特にこの曲に対するものだと考えれば、極めて合点がいく。その人はおそらくここまで聴いて嫌になったのだろうと思う。正直、僕も最初に聴いたときは不安になった。彼女がかつて学んだと言うヤマハ音楽教室に関する、僕が嫌いな一面が凝縮された様な音楽にも聴こえた。5曲目の「010101バイナリーシステム」もシンセをフィーチャーした作品としてはいま一つ中途半端な印象である。
とは言え、僕はこの一週間は通勤時にはほとんどこれを聴いていたので、それなりの聴き応えがあることは確かだ。「サマーレイン」は予め僕のiPodからは除いてある。この音楽をかつてのプログレッシヴロック、とりわけキース=エマーソンの音楽に似ているという人もいるようだが、僕自身はチック=コリアが1980年代後半に世に放ったエレクトリックバンドとアコースティックバンドの音楽性に近いように感じる。
ある意味、最近このろぐでとりあげたマルグリュー=ミラーやジェシカ=ウィリアムスのような、伝統に強く根ざしたピアノジャズの一面は、この作品にはない。現代の日本的エッセンスとでも言えるインダストリアルな要素に満ちあふれた音楽である。そこに若い彼女の独特の元気なエモーションが弾き込まれているので、インダストリアルな一面が嫌みにならない新鮮さが感じられるのだろう。
日本人女性ジャズピアノと言えば、1990年代半ばに現れた大西順子を思い出す。彼女も当時はテレビに出たり、海外の大物リズムセクションを従えて次々とアルバムを発表したりと、大忙しの数年を過ごしたのだが、その後ぱったりと音信がなくなったので気にはなっていた。それがこの春に5〜6年のブランクを経て活動を再開されたようである。彼女や、今回の上原、そして最近もう一人話題になっている山中千尋にしても、いずれも力強いタッチのピアノ演奏で、現代的な意味での日本人女性の魅力を表しているように思う。
そのなかでも上原の魅力は、特に現代的な感性に大きく軸足を置いていること。全面的にエレキベースを採用しているのはその象徴といえるだろう。そして「おてんば音楽」とでも言える、従来のジャズの枠にとらわれない奔放さである。僕にはそれが決していままでにない斬新さだとは思わないけれど、そういう「日本らしさ」が海外でも高く評価されていることは素晴らしいことだと思う。
12月に東京でも予定されているライヴは完売とのこと。僕は、すでにセカンドアルバムの「ブレイン」も購入し、今週には3作目の「スパイラル」が届く予定になっている。それらについては、また追って紹介したいと思う。今後が楽しみなアーチストである。どうか、周囲の雑音を上手くしのいで、今後も力強く自分の道を切り開いていって欲しい。
上原ひろみ ヤマハ音楽振興財団による公式サイト
0 件のコメント:
コメントを投稿