10/10/2005

オウテカ「アンバー」

  久しぶりにCDの整理をやってみた。ディスクユニオンで買取り強化サービスをやっていて、通常査定額の20%増しで引き取ってくれるという。居間にあるCDラックから溢れ出したCDが、テレビ台の前に列を作っていて、妻からの「足をのばして寛げない」という苦情を、ずっと聞かぬふりをしてやり過ごしてきたのだけど、これを機会に少し整理して処分しようという気になった。

 2時間近く作業して、今回はジャズ、クラシック、テクノを中心にざっと100点程度を処分することに決めた。これを紙袋2つに分け、彼女にも手伝ってもらって、自宅からお茶の水にあるディスクユニオンまで手で運んで行った。これが結構重いのである。ディスクユニオンは、ちゃんとジャンルごとの専門家がそれなりの査定をしてくれる。今回はジャンルが複数にまたがっていたので、多少手間と時間がかかったが、キャンペーンの20%増しのおかげもあって、合計で6万円を少し上回る査定結果には、十分満足だった。

 処分してみてわかったのは、いままであまり期待できなかったテクノ系の査定額が、予想以上に高かったこと。これまでも何度かテクノ関係のCDを処分したことはあったが、本当にどうでもいいような買って後悔した作品が中心だったからか、1枚100円とか50円という散々な査定結果に、これからはこういう買いものをしないように気をつけないとなあ、と自分に言い聞かせたものだった。それが今回は、一時期かなり愛聴したコンピレーションなどを中心に、もう聴かないかなと少し思い切って処分したところ、ものによっては1枚1000円以上の査定がついた。これには少し意外な感じがした。

 インターネットブームにやや先んじて起った、1990年代半ばのテクノブーム。面白いジャズがないなあと嘆いていた僕は、そのジャンルにかなりハマった時期があった。ちょうどMacを手にした時期でもあって、聴くだけに飽き足らずに自分で音楽を創ってみたりしたこともある。その頃作った作品は2曲ほど、いまもテープに残してあるが、はじめて作ったにしてはなかなかの出来だと思っている。

 テクノという音楽ジャンルはそれ以前から存在していて、少なくとも、アナログシンセサイザーとシーケンサーが出現し、それによって奏でられるリズムを基盤に据えた音楽を演奏したドイツのクラフトワーク、そして日本のイエローマジックオーケストラあたりが、ジャンルを形成する上で重要な役割を果たしたのだと思う。もちろん、その源としてさらにそれ以前の電子音楽やテープ音楽にさかのぼることはできるだが。

 1990年代のテクノは、そうした音楽機材がお手頃な価格になったことと、欧米でのハウスミュージックの興隆といった動きが結びついて、誕生した音楽ジャンルである。若いアーチスト、若いレーベルオーナー等を中心に、商業主義で停滞していた観のある音楽の世界に、とても新鮮な風を巻き起こした。アーチストでは、エイフェックスツイン、オーブ、オービタル、システム7、ブラックドッグ、FSOLなど、レーベルでは英国のWARP、ベルギーのR&S、アメリカのTVTなどが、そうしたムーヴメントをもり立てた主役達だった。

 彼等から新しいクリエイティヴな音楽が次々と発表されるのは、本当にわくわくする様な時代だった。当時、僕はもう30歳代になっていたから、そういう音楽を楽しむ世代としては、おそらく既にちょっと年齢が高めだったと思うが、僕はやっぱり新しいものが欲しかった。CD屋さんにはハウスミュージックの売り場が出来、その中にテクノのコーナーが出来るまでになった。

 その後、テクノは急速な広がりを見せて拡大し、大きくなることと引き換えに、必然的に現れるつまらなさが目や耳につくようになった。作品では、従来のパターンを真似ただけの安直なものとか、ポップミュージックに接近した作品、急速に進化を遂げたコンピュータを取り入れた複雑なものなどが出てきて、本来の新鮮さとは別の側面が目立つようになった。技術の進化と同様に、テクノミュージックの世界も急速に変化していったわけである。

 先にあげたアーチストやレーベルは、現在も素晴らしい活動を続けている。どうでもいいような連中は姿を消してしまった。いま振返ってみると、そのすぐ後に続いて興った、ヤフー、アマゾン、イーベイ、そしてグーグルを中核とするインターネットビジネスの状況によく似ていると思う。

 今回は、テクノのなかで僕が一番好きなアーチスト、オウテカの作品をとりあげた。これは、彼らにとって公式には2枚目のアルバムだったと思う。アナログシンセ、リズムマシン、サンプラーを主体に、他のアーチストとはかなり違う明確な音楽世界が表現されている。アナログテクノの金字塔と言える作品である。どの曲を聴いてみても、独特の音世界と心地よさが同居している。夕暮れか早朝の日差しに、紫色にそまる砂丘のジャケット写真が印象的だ。

  彼らもまた、この作品に前後するアナログ時代からしばらくして、コンピュータを大胆に導入したデジタル音楽を模索した時期があった。僕は彼らの作品は出るたびに必ずチェックしているが、実を言うと今回のCD処分で、その時期の作品のほとんどを処分してしまった。試みの大胆さは面白いし、独自性も相変わらずだったが、なぜか僕には何度も聴きたくなる気にはならなかった。最新作「アンティルテッド」(写真右)が出て、ようやくそれが一つの完成を見たように感じた僕は、過渡期のものを処分することにしたのだ。また聴きたくなることがあるかも知れないが、その時は音楽配信を利用することにしようと思う。

 コレクションを手放すことに寂しさはあまりなかった。それよりも整理が出来たことで、何か少し気分が軽くなったように思えた。思いがけずお小遣いも手に入った。これはまた新しい音楽を探究するのに費やそう。最近は以前より慎重になったせいで、あまり失敗はない。こういうことを学ぶためにも、たまに蒐集したものを整理するのはいいことだ。

WARP Records ワープレコードのサイト。テクノの老舗らしい仕掛けが一杯のサイトです。

(おまけ)
 テクノとは何の関係もありませんが、先の週末、伊豆長岡と沼津に行ってきました。その時に沼津市内のお寿司屋さん「幸寿司」でいただいたお寿司です。手長エビをはじめとする秋のネタが盛りだくさんで、本当においしいお寿司でした。わざわざ行った甲斐がありました。

 長岡で泊まった旅館の近くにある、かつらぎ山の頂きからの眺め。左手に相模湾、右手には富士山が見えます。天気もよく、とても気持ちのよい眺めでした。

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