7/02/2005

ピンク フロイド「アニマルズ」

  「原体験」という言葉がある。辞書には「その人の思想が固まる前の経験で、以後の思想形成に大きな影響を与えたもの」とある。僕にとって音楽の原体験というのは、思いつく出来事や作品がいくつかあるのだけど、具体的にどれかひとつということになると、やっぱりピンクフロイドということになるのだと思う。久しぶりにフロイドのある作品をじっくり聴いた週だったので、今回はこれを取りあげようと思う。

 ピンクフロイドは1965年に結成されたイギリスのロックグループである。「ピンク色のフロイド」とは何のことだろうかと考えてしまうが、バンド名の由来は当時メンバーが好きだったアメリカのブルースシンガー、Pink AndersonとFloyd Councilの名前をつなげたもの。「原子心母」(1970年)「狂気」(1973年)「ザ・ウォール」(1979年)の3つがバンド活動の変遷を知る上での代表作。なかでも「狂気」に続く「あなたがここにいてほしい」(1975年)「アニマルズ」(1977年)の「三部作」といわれる作品群の時代が、一つの絶頂期であることは間違いないだろう。

 僕が兄の影響を受けて洋楽を聴き始めたのが11歳のあたりで、ちょうど今回の作品が発表される前頃だった。同時にわが家に本格的なオーディオセットが導入された時期でもあり、僕も兄が購入したこれら3部作のLPレコードをカセットテープに録らせてもらい、何度も繰り返し聴いたものだ。

 三部作以前の彼らは「音と光の魔術師」などといわれ、幻想的なサウンドとライヴパフォーマンスが人気だったのだが、三部作以降は加えて歌詞を通じた社会的メッセージが大きな特長となる。「狂気」では人間の心の奥に潜む欲望や悩み葛藤などに焦点が当てられ、サウンドの斬新さと相まって大成功を収めた。続く「あなたがここにいてほしい」では、その成功をうまく消化できないメンバーの心境が、バンド結成当時の中心的存在で精神を病んで引退してしまったメンバー、シド=バレットへのオマージュとなって表現された。

 そしてこの「アニマルズ」では、資本主義的人間社会への風刺が、「犬」「豚」「羊」の3つの動物に象徴された人間へのメッセージとして歌われている。ちなみに大雑把には「犬」がホワイトカラー、「豚」は資本家、「羊」がブルーカラーを象徴している。3つの楽曲をはさんでアルバムの前後に収録された「翼をもった豚Part1,2」は、この作品が取りあげるテーマについての課題提起と結論という形になっている。イギリスのパターシー火力発電所の上空に巨大な豚の風船を浮かべたジャケット写真も話題になった。

 これを一生懸命聴いていたローティーンの僕。歌詞の意味はわからないわけではなかったけど、それをある程度理解するのにこのサウンドが大きく役立っていたのは間違いない。14歳でベースを手にした頃も、最初は、バンドでやれる当てもないのに、これらの作品のコピーを一生懸命やっていた。いま聴いてもこれらの作品は本当に音の隅々まで頭に記録されている。通勤電車のなかといううるさい環境で聴いても、一部の音が入ってくるだけで僕の頭の中には、作品のディテールが勝手にわき上がってくる。言うまでもないが、サウンドは全く色褪せていない、それどころか僕にはR&Bをベースにした究極的サウンドのひとつであると思えてならない。デジタルの時代にはなかなか思いつかないものだろう。

 あの頃と変わったこと、それは僕自身が「社会人」になったということ、すなわちここで歌われている人間になったわけである。初めてフロイドを聴いてからもう30年になるんだ。それだけにいま一番新鮮なのは、この作品の歌詞である。ここには掲載できないのが残念だが、とにかくいまになって聴いてみるとあらためてドキッとさせられる内容である。これを聴くと、あの当時のイギリスという国が、ちょうどいまの日本と似たような状況にあったのだなということがよくわかる。

 資本主義という言葉は、社会主義あるいは共産主義という言葉が表面上力を失ったことで、同様に世の中を説明する言葉としては存在感がうすいものになってしまった。でも世の中(経済社会と言うべきか)は「犬」「豚」「羊」を中心に構成されている、このことは変わっていないように思える。ブルジョワだブロレタリアだと対極的に捉える時代ではもはやなくなってしまっていて、その意味では、3つの動物の要素が多かれ少なかれ混在するようになってきているとも言える。

 それぞれの立場で仕事に行き詰まった人、あるいは人生に行き詰まった人が、この作品を聴いて何か答えが得られるというわけではないだろう。逆に、我々自身の心の中にいつの間にか出来てしまっている「開かずの間」の中身を、この作品は歌っている。つまり聞きたくないこと、言われたくないことなのだが、何らかの変化を求めるなら、その扉を開けてそのなかのメッセージに耳を傾けることは無駄なことではないだろう。

 ひとつの作品でこれだけまとまった世界観とメッセージを伝える音楽作品は、そうそうあるものではない。英語がちょっと、という方は国内盤を買えば対訳がついている。凝った訳は要らない。直訳で十分メッセージは伝わってくる。こういうサウンドが慣れない方には、少々退屈と思われる部分もあるかもしれないが、是非とも40分間を通して聴いてみられることをお勧めする。無駄のない音楽とはこういうものだ。

Pink Floyd 公式サイト
Live 8-The Long Way to Justice- Live 8公式サイト〜24年ぶりにピンクフロイドがフルメンバーで再結成されるそうです
ピンクフロイドについて プログレ愛好家KENさんのサイトより(情報が豊富です)
東芝EMIによる日本語サイト 本作品の曲目が間違っているなどいい内容ではありません

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