7/16/2005

ウェイン=ショーター「ビヨンド ザ サウンド バリア」

  いや〜これは素晴らしい作品が登場したものだ。久しぶりに感激したジャズの傑作、僕が聴きたかった「21世紀のジャズ」だ。先週末に購入して以来、もう20回以上聴いたけど、聴けば聴くほど素晴らしさが明らかになってくる、そんな作品である。

 ウェイン=ショーターはサキソフォン奏者。本格的にデビューした1960年代当初から常にシーンに新しい風を吹き込んできた人物である。彼の特徴は大きく2つ。ソロ演奏において、ロリンズとコルトレーンの影響を受けながらも、全く異なるというか真似のできない完全なオリジナリティを持っていること。そして、その音楽センスから生み出されてくる優れた作曲能力である。

  そうした彼のセンスを象徴する演奏として有名なものに、彼の初期(いまとなってはそう言っていいだろう)に演奏された「枯葉」がある。これはマイルス=デイヴィスのグループの一員となって、初めての欧州ツアーに参加した際の模様を収録したライヴ盤「マイルス イン ベルリン」(写真右)に収録されているものだ。ここでのショーターのソロに関しては、いろいろな人が書いているので特には触れないけど、この演奏はショーターという人の音楽を知るうえで格好のものかもしれない。

 そしてマイルスグループでの活動に並行して行われた、1960年代後半からブルーノートレコードでの一連の作品。この頃のショーターを愛聴する人は多い。僕も8枚のリーダー作はすべてCDで持っている。そして20世紀最後の四半世紀は、ウェザーリポートの活動やCBSでのリーダー作で数々の優れた作品を残したが、ウェザー以外での活動はどれもプロジェクト的なもので、この人は自分のグループを作って活動するということはしないのかなと思われていた。

 ところが、21世紀に入ってレコード会社をヴァーブに移籍すると同時に、突然、彼は音楽人生ではじめてとなる、自己のグループでの活動を開始する。今回の作品はその3作目となるもので、2002年から2004年までに世界の様々な場所で行われた演奏から、厳選されたものを収録したライヴ盤である。ライヴ盤と言っても、一夜のライヴパフォーマンス全体を再現しようというような意図よりも、スタジオ盤のようなコンセプトがある世界を表現を指向したものである。

 一聴して多くの人が抱く印象は、広い意味でのショーターに対する第一印象そのものであると思う。ショーターを聴いたことのない人には「つかみ所のない音楽」に聴こえるかもしれない。一体、この音楽はどこまでが楽譜に書かれていて、どこからがアドリブ演奏なのか、そういう疑問のようなものをもって聴いてしまうのだが、結局、具体的にその答えがわからないまま、その疑問は驚きや感動に変化してしまう、そういう演奏だ。

 CDパッケージからディスクを取り出すと現れる彼の姿は、表情そしてポーズともにいまの彼をよく表していてとてもいいと思う。今年72歳ということになるのだが、そんなことは全く感じさせないこの演奏を聴いていると、一生かかって何かを追求して作り上げるという姿勢の、大切さや尊さの様なものを強く感じる。

 まったくうらやむほどに素晴らしい人生である。

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