2/02/2004

マックス=ローチ「サバイバー」

Max Roach:  川崎駅前にある中古レコード屋「トップス」にぶらりと立ち寄って購入した1枚。マニアが集まるお店では、こうした面白いものと出会えるのが楽しみだ。ずいぶんと長いキャリアを感じさせるお店だ。マスターとはまだ会話を交わしたことはないが、彼がこれまでに築き上げてきた音楽観がそのままお店の雰囲気に滲み出た、そんな感じのお店だ。

 日本人は昔から「○○ひとすじ」というのが好きらしい。ラーメンひとすじ、将棋ひとすじ、靴磨きひとすじ、編集ひとすじ、等々である。ただ、ひとすじと言っても、それを続けるのはそればかりただやってればいいというものではないだろう。時代が変わってゆくなかで、自分にできる数少ない得意技をどう輝かせるか、それは大変な努力が必要なことだ。そういう意味では、時代遅れといわれるのも、時代に媚びているといわれるのも、外から言われるのは案外同じことなのかもしれない。大切なのは、自分がなにをしたいかだろうから。他のことがやりたければそれをやるのも悪くない。ただ食い散らかしとか、器用貧乏とかにはなりたくないものだ。そして「やりたいことがない」というのも。そんなはずはないと思うのだが。豊かになるほど物事が見えにくくなり、結果として貧しくなる、これは皮肉のことだ。

 マックス=ローチは、モダンジャズの黎明期から活躍する名ドラマーである。多くのジャズの巨匠は既に世を去ったが、彼は今年で80歳になる。最近、音沙汰がないのはちょっと寂しいが、変化するジャズの歴史の中で、常に新しい自分の芸術を求め続ける姿勢は立派である。この作品は1984年の録音だから彼が60歳のときのものだ。内容は弦楽四重奏とドラムの20分を超える共演が1曲、ローチのドラムソロによる6曲という構成。そう聞くと一体どんな音楽なのかと、何とも異様に思われるかもしれないが、まったく感動的な演奏である。ローチがドラムを叩くときに思い描いているメロディーが、弦楽四重奏によって具現されていると思うと、非常に興味深く聴こえてくる。

 この作品を聴いて驚いたのは、ローチの演奏で最も有名なものの一つである、モダンジャズ全盛の1956年の銘盤、ソニー=ロリンズの「サキソフォン・コロッサス」で聴かれた演奏と比べても、彼の演奏スタイルが全く変わっていないことである。彼の音楽は時代の流れのなかでまさに波瀾万丈に変化をとげていくわけだが、彼自身がドラムから離れることはなかった。彼自身はまぎれもなく「ドラムひとすじ」だったわけである。その意味でもタイトルの"Survivors"はイカしている。


Black Saint / Soul Note / DDQ
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