久しぶりに本を読んだ。ポーランド人ジャーナリスト、リシャルト・カプシチンスキの「黒檀」。
この本はある日突然、僕のアマゾントップページのおすすめ欄に現れた。理由は簡単で、僕が過去に読んだ「オン・ザ・ロード」「楽園への道」と同じ、河出書房の世界文学全集の一巻だから。
この全集は僕ができることならすべて読んでみたいと思っている数少ない書籍である。まだ3冊しか読んでいないけど、僕にとっておそらくはハズレがないと確信しており、それはこの作品を読んでますます揺るぎないものとなった。
タイトルに魅かれて何気にクリックした先にあった商品説明やレビューに目をやって、これがアフリカについて書かれたものであることがわかり、それ故に僕はこの作品に大きく惹かれることになった。
その頃、僕は仕事で少しアフリカに縁があった。といっても僕がアフリカに行ったわけではなく、会社のお偉いさんがアフリカで開かれたある会合に参加することになっており、僕もその準備に携わっていた。
海外の案件は3年前から一緒にやっていた女性が主に担当し、自分は必要に応じてアドバイスをする立場にある。その件を手がける中で、彼女が子どもの頃にアフリカに住んでいた経験があることを知った。驚くと同時にある種の羨ましさを強く感じた。
僕にとってのアフリカは、主に音楽を通じて得た知識しか持たないものだけど、単なるイメージ(サバンナの動物たちや民族の衣装やダンスなど)の蓄積が大きくなってきたある時から、ずっとアフリカの真実の様なものを知りたいと思っていた。
アフリカで一体何があり、なぜ貧困やら争いやら疫病が蔓延しているのかとか、一つひとつの国はどういう成り立ちで互いにどういう関係なのかとか、そうしたことに対してただ「植民地」とか「奴隷貿易」とかの言葉が、漠然と思い浮かぶだけだった。
カプシチンスキのこの作品が、僕のその感情に何らかの答えをもたらしてくれそうな気がした。
アフリカに関連した仕事は、彼女が現地まで同行してくれたこともあって会社としても大きな成果を収めることができた。それを機に僕の彼女に対する尊敬の念も大きくなった。
4月で彼女の所属が変わることもあって、この3年間の仕事に何か感謝の印をと考えてふと思い浮かんだのがこの本だった。
人様に贈る以上は自分が中身を知らないわけにはいかないもの(いくら内容の素晴らしさに確信があったとはいえ)。それで僕も近くの公民館にある図書室でこれを借りて読んでみることにした。
文学全集の作品だがこれは小説ではなく、筆者がメディアに連載したルポルタージュのアフリカ見聞録をまとめたものである。
内容はとても素晴らしかった。レビュー等にもあるように、確かにどのルポから読み始めてもいいのかもしれないが、僕はやはり最初から順番に巡ってゆくことをお勧めしたい。
笑いや悲しみ、驚きや恐怖に満ちた様々な冒険を通じて、アフリカの歴史や風俗文化についての28編の物語は実に味わい深く愉しみ甲斐のある文章になっている。僕が知りたいと思っていたことは十分に教えてもらえた。
そして、それらを振り返って綴られる最終章がもたらしてくれる大きく深い感動の素晴らしさ!作品のタイトルが全編を通してたった一度だけここに現れるのだが、それが実に見事な効果を伴っていて、この作品が紛れもない文学であることの証となっている。
単にアフリカにとどまらず、現代のどの社会においても人間誰しもが受け継いでいる普遍的な刹那さや宿命に通じるものを湛えている。アフリカは悲劇や哀れみの対象だけではなく、人間の純粋さと力強さの象徴でもある。
残念なことにこういう本はますます店で探すのが難しくなってきている。読みたいと思った人は迷わず図書館をあたってみよう。僕の切なる願いは、1日も早くこうした名作が電子書籍として世に流通することだ。
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