12/05/2010

キース=ジャレット トリオの四半世紀

キース=ジャレットが、ゲイリーやディジョネットとトリオで活動し始めてすでに25年以上が経過する。これまでにこのユニットで発表されたアルバムは20タイトル近くあるはず。僕もそのうちのかなりの数を持っていた。

最近、CDの処分を考えるにあたって、これまでは聖域としてきたそれらの作品も対象に考えてみることにした。結果、何枚かのスタンダードものを中心にしたアルバム〜"Whisper Not"や"Bye-bye Blackbird"あるいは"The Cure"といった作品〜を手放すことに決めた。

このトリオは現在もなお活動中で、つい先ごろも来日している。先日、森山を一緒に聴きに行った同僚も横浜公演に行ったらしいが、彼の話を聞く限りは、忘れ難い演奏会というほどのものではなかったようだ。

これからもまだ色々な録音がECMから発売されるかもしれないが、ここ数年間に発売されたものを聴いていると、トリオとしてのピークは2001年ごろにあったということが明らかになってきていると僕は思う。

僕にとっては、このトリオの最高傑作はスタンダード集の"Standards Live"と、オリジナル曲と即興演奏で構成された"Always Let Me Go"のいずれかだ。極端なことを言えば、これら以外の作品は手放してもいいと思っている。

そんななかで、処分するにあたっていま一度彼等の作品を聴いてみて、あらためて素晴らしさを再発見したのが"Inside Out"である。

即興演奏を中心に構成されたこの作品は、"Always..."の前年である2000年7月にロンドンで行われたコンサートの模様を収録したもの。最初の4つの演奏はキースの作ったモチーフを元にしており、途中フェードインとフェードアウトがそれぞれ1個所ずつあるものの(それに対するキース自身の言い訳がライナーに記されている)、内容は"Always..."に匹敵する名演である。

そしてアンコールで演奏されたこのアルバム唯一のスタンダード曲"When I Fallin' Love"がまた素晴らしい。余分な音がまったくないとさえ思える、非常に抑制された美しさがいい。

とは言え、この時期の彼等の素晴らしさはやはり即興演奏にあると思う。そしてそれはスタンダードを演奏することで養われてきたこのトリオによる音楽表現の創造性が、既存の楽曲という拠り所を超えた域に達していることの現れであり、同時にこのトリオのピークを示しているのだと思う。

だから僕は数多くある彼等の音楽のなかで、どの作品を手元に残しておくかについて、ようやく自分なりに納得のいく判断ができるようになったのだろう。

トリオ結成して2,3年でスタンダード中心のスタイルが確立し、ビジネスの流れも手伝ってその後10年間はその時代が続いたが、"Standards Live"で示された斬新さとパワーにあふれる演奏は明らかにひとつの頂点である。

そして、トリオが熟成するに従って、自然発生的に、性ともいうべきか、生まれた即興演奏の追求が開化して生まれたのが"Always Let Me Go"に代表される2001年前後ということになる。このスタイルこそが、このトリオの本質であり彼等が音楽を通して表現したいことそのものなのだと思う。

それが商業的に見てどうかということは別の問題であるが、個人的には今後もう少し時間をかけてでも、この時期の音源を発表していく価値は十分にあると思う。

一方、彼等の演奏家としての年齢的な問題も合わせて考えれば、スタンダードであれ即興演奏であれ、このトリオに新しい何かを期待するとすれば、それはかなり次元の異なる内容になるのではないだろうか。僕にはそこまでの期待はない、もう十分だと思う。

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