3連休初日の金曜日。天気もあまりぱっとしないし、家でのんびりすることにした。近所のインド料理屋で2人揃ってカレーを食べ、少し買い物をして帰宅した。
夕方になって、最近届いたマイケル=マントラーのCD"No Answer/Silence"を居間のオーディオで聴いていたら、横になっていた妻が「お腹の子供が動いてる」と言う。妻の耳にもちょっと不思議な音楽に響いたのが、子供にも伝わったのかななどと考えた。
そうこうするうちにお腹が少し痛むと言う。陣痛かなあ、どうなのかなあなどと言っているうちに、痛みは規則正しい間隔で現れるようになり、それはすぐに10分から5分間隔になった。面倒を見てもらっている近くの産科院に何度か電話するうちに、ほどなく病院へ来なさいとの指示が出て、僕はタクシーを呼んだ。
妻はかなり痛そうだったが自分で起き上がってアパートの階段を下り車に乗り込んだ。幸い病院の場所を知る運転手さんで、病院まではワンメータで着いてしまった。着いてすぐに当直の看護士さんが様子を診てくれ、もうかなり状況が進んでいることを教えてくれた。時間は午後10時だった。もしかしたら今日中に産まれるかもしれないとも。
強い痛みで辛そうな表情の妻を励ますといっても、手を握って「頑張ろうね」と声をかけてあげるぐらいのことしかできない。とにかくこの状況では男は無力である。病院のCDプレーヤを借りて、妻がお産のときに聴きたいといっていたキース=ジャレットの"The Melody At Night, With You"をかけてあげた。
結局、それから日付が変わってそう経たないうちに子供は産まれた。妻の側から僕もその一部始終を見させてもらった。頭が出てきた時は「おおっ!」と思ったが、続いて手が出てきたときは正直少しギョッとした。
先生のサポートと慣れた手であっという間に子供は妻のお腹から産まれてきた。看護士さんがすぐに妻にも見えるように彼を持上げ、それを見た妻が「ああ、出た」と初めて安堵の表情を見せたその瞬間、子供は高らかに産声を上げた。元気な男の子だ。
狭い道を頑張ってくぐって出てきてくれた子供と、この子を10ヶ月間胎内に育んで最後に無類の苦痛を味わいながら産み出してくれた妻には、ただただ感謝感動するばかりである。このことは一生忘れないでいられるだろう。
妻が産後の処置を受けるため僕は分娩室を出た。なんやかんやで1時間半近く待つ間、兄に携帯メールで連絡を入れた以外は何をしてたのかよく覚えていない。待っている間、隣の部屋でキースのピアノが流れるのが聴こえた。産後の処置も辛そうだったが、彼女のいろいろな気持ちもあのピアノで少しは癒されただろうと思う。
再び分娩室に戻り家族3人で初めてのひと時を過ごした。お互いに子供を抱いて写真を撮ったり、話しかけてみたりした。子供はとにかく大きな声で繰り返し泣いた。それは何よりの音楽だった。
結局午前4時前に僕は病院を後にした。かなり眠気があったのと、早朝でもまだ辺りは真っ暗で風も少し冷たかったのだが、僕の足取りは雲の上を歩いてるように軽かった。家に帰ってシャワーを浴び、本当はすぐに眠って翌朝の用事に備えなければならないのだが、やはりビールでひとり祝杯をあげてしまった。
というわけで、新しい家族が誕生しました。妻とともに、またこのろぐにもちょくちょく登場することになると思います。これからも見守ってやってください。
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