10/06/2008

ジョー=ヘンダーソン「マイルストーン イヤーズ」

音楽ダウンロードがとても便利で利用できる作品がどんどん増えてゆくので、CDの購入はしばらく抑えてきたつもりだった。ところが8月あたりからまたジャズを聴くことが多くなったのをきっかけに、またCDをいろいろと買うようになっている。

最近紹介したリーブマンらの「ペンデュラム」以降、そのあたりがかなり調子づいていて、ここ1ヶ月あまりで枚数にして十数点を買った。その中には久しぶりの大きな買い物も含まれていて、先日それがアメリカから届いてしまった。

今回買ったのはジョー=ヘンダーソンの"The Milestone Years"。その名の通り、ジョーがマイルストーンレーベルに在籍した1967〜1976年に収録された82曲を8枚のCDにまとめたBOXセットである。ここには12枚のリーダーアルバムと3つのゲストセッションが含まれている。

これを買うことになった経緯を簡単に。前回のろぐに書いたように、先週出かけたタワーレコードで、ジョーのマイルストーン最後のアルバム"Black Narcissus"が国内盤で復刻されているのを知った。1974〜5年にかけて製作されたこの作品は、当時のジャズシーンを色濃く反映する作品なのだが、試聴してみた僕の耳は1曲目からその素晴らしさの虜になってしまった。

ならばそれを買えばいいのにと思われるかもしれないが、その時僕の頭の中をいつもの計算癖が駆け抜けたのだ。2300円の国内盤は果たしていい買い物なのか?本当は自分でも欲しいと思ったら金のことなんか考えずに、その場でためらいなく買えればカッコいいのかなと少しは感じるのだが、どうも僕はお金には慎重な性格らしい。

とっさに頭に浮かんだのが、このコンプリートボックスのこと。仮に目の前のアルバムに満足したら僕はきっとその前のアルバム、そのまた前のアルバムというように、しばらくはこの時代のジョーの音楽を追い求めることになるだろうという、予感というか確信があった。それが何枚あるのかその時は知らなかったし、ジョーのマイルストーン作品で持っているのが初期の"Tetragon"1枚だけだということは間違いなかった。

ともかくその場でそれを買うのは必死の思いでガマンして僕は帰宅し、ネットにアクセスしてこのボックスセットの値段を調べてみたのである。結果、イーベイに出店しているところが45ドルと破格の値段であることがわかり、ペイパルが使えることも災いして即決購入と相成った次第だ。品物が届いたのは1週間後の土曜日の朝だった。

さてさて、内容の素晴らしさはもう想像以上のものであった。まだ通しで1回聴いただけなのだが、これを聴かずに素通りしなくて本当によかったと断言できる素晴らしさである。1960年代のブルーノート時代はもちろん素晴らしいし、1980年代のレッドレーベル、そして最後のヴァーヴ時代の諸作もいい。だけど本人の演奏技量の成熟に加えて、演奏される音楽の幅広さや奥深さということを考えると、マイルストーン時代のこれらの音楽は時代を経るごとに真価が出てきているように思える(もちろん単に僕の中でだけなのかもしれないが)。

セットは12枚のアルバムセッションを録音順に収録している。面白いのは、音楽性が前期と後期でかなり明確に分かれていることと、その両者の境界に位置するのが日本で収録されたライヴレコーディング"Joe Henderson In Japan"になっていることだ。

セットに付属しているブックレットには、レーベルプロデューサーであるオリン=キープニュース氏によるすべてのセッションに関する解説が載せられているのだが、この日本でのセッションに関する短い言及はなかなか興味深い内容である。

ここに含まれている音楽の何がどう素晴らしいのかについては、機会があればアルバム単位に紹介できればと思う。登場するメンバーが時代を追って変化してゆく様を考えるだけでも、楽しいものである。とてもその全部を書き記す余裕はないが、ハンコックやカーター、その後のエレキマイルスを彩った人たち、さらにはスタンリー=クラークやレニー=ホワイト、チェーリー=ヘイデンやアリス=コルトレーン、ジョージ=デューク、リー=リトナー、ハーヴィー=メイソンまで登場する。後半ではシンセサイザーはもちろん、ロン=カーターのエレキベースや、ソウルシンガーのフローラ=プリムとのセッションまであるのだ。

もちろん音楽は好みの世界だ。そこにいつの時代にも変らない何かを求めるのも悪くない。僕も以前はそうだったのかもしれないが、いつからか音楽にも変化の軌跡を楽しむようになった。そこに僕自身のいろいろな変化(気分や嗜好からもっと本質的な何かまで)が重ねられ、僕と音楽の関係性はその時々で一期一会のようなものになるのだろう。

いまのところ僕は音楽をそのように楽しんでいるし、しばらくの間それは変らないだろう。今回のジョーヘンのセットもその流れのなかの一つなのだが、明らかにそれは僕にとっても一つのマイルストーンになっている様に思う。

Joe Henderson
"The Milestne Years"

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