また渋谷に独りで出かけ、ラーメンを食べてCDを物色しようと思った。博多ラーメンが食べたかったので、京王渋谷駅近くにある「博多天神」に行ってみたところ、お店の雰囲気が少し変っていて、店名は「博多風龍」となっている。店頭には券売機が置かれ、替え玉無料券を入れたかごはぶら下がっていなかった。
とまどってしまった僕はそのままお店をやり過ごしてしまった。こういう変化はどうも苦手だ。いっそ全然違うお店になっていてくれた方がまだいいのにと思いながら、そのまま味噌ラーメンの壱源に向かった。
ところが道玄坂から壱源のある路地を曲がろうとすると、その先を少し上がった百軒棚通りの角にまた「博多風龍」の看板を見つけた。博多天神が以前そこに出店していたのかどうか僕は知らない。でもそれを見た僕はこれはきっと天神がリニューアルしたのに違いないと思い、そのお店に入ることにした。それほど僕は博多ラーメンが食べたかったのだ。
博多ラーメンが一杯500円。それになんと替え玉は2つまで無料。さらに茶飯までがただでもらえるという。とにかく替え玉をしたかったので、茶飯は遠慮することにした。出てきたラーメンは博多天神のあの味と同じだと僕は思う。中国人か韓国人の元気なお兄さん達が店を切り盛りしている。満足だった。
今回もいろいろなCDに出会った。欲しいものはいろいろあった。ただそこはぐっとこらえて現代音楽の2枚組廉価盤を買うにとどめた。本当に買おうかどうしようか迷ったものがあったのだが、その欲も強引に押さえ込んだ。なぜなら、既に前日の夜にアマゾンでCD2枚を衝動買いしていたから。しかし、結果的にその抑制が帰宅後に大きな買い物をするきっかけになってしまったのだが、これについてはまた後日書くことにしよう。
アマゾンで買った2枚とは、いずれもマイルスの作品。1981年の"The Man With The Horn"と1984年の"Decoy"だ。前作は僕にとってはとても重要な1枚である。なにせ僕が初めてマイルスを聴いたのがこの作品なのだ。LPレコードはいまも僕の実家に置いてある。
1975年にリリースされたライヴアルバム("Dark Magus", "Agharta", "Pangaea")とニューポートジャズフェスティバルへの出演を最後に、マイルスは長い療養生活に入る。それは1981年まで6年間続き、その沈黙を破ったのが"The Man With The Horn"なのである。このリリース直後、マイルスは来日し新宿の高層ビル群をバックに演奏を行った。その模様はNHKでも放映され、厳密にはそれが僕の最初のマイルス体験となったのだ。
当時まだ高校2年生だった僕は、マイルスがどれほど偉大な人かも何も知らなかった。ただそこで演奏されるジャズともフュージョンとも異なる不思議な音楽はとにかく衝撃的だった。その後、大学に進んだ僕はマイルスの新作を追いながら、彼の音楽をどんどん過去に遡った。そうして僕はジャズの幅広さ理解したのだと思う。同時にコルトレーンからはジャズの奥深さを学んだのだと思う。
1987年の野外コンサート「セレクト ライヴ アンダー ザ スカイ」で来日した生身のマイルスを大阪万博公園まで観に行き、ラッパを吹きながら観客席に降りてきたマイルスを、わすか2、3メートルの至近距離で視るという有り難いハプニングもあった。
そして僕は社会人になり、3年目になった年の1991年9月28日にマイルスの訃報に触れた。これが僕のコンテンポラリーなマイルス体験だ。初めてマイルスの音を聴いてからちょうど10年が経っていた。そして今日は彼の17回目の命日にあたる。
いま一番好きなマイルスはと聞かれれば、1960年代後半のいずれかの作品をあげることになるだろう。そして僕は1950年代のマイルスよりは1980年代の演奏が好きだ。これは今後も変ることはないだろうと思う。
今回買った2枚のアルバムを僕はCDでは持っていなかった。いずれもLPレコードからダビングしたテープを通して何度も聴いていたから。そこから僕はいろいろなミュージシャンに出会った。マーカス=ミラー、ダリル=ジョーンズ、ブランフォード=マルサリス、ビル=エヴァンス、マイク=スターンそしてジョン=スコフィールド。
トラックでは、"The Man..."の冒頭2曲"Fat Time"と"Back Seat Betty"、そして"Decoy"の後半3曲"What It Is"と"That's Right"そして"That's What Happend"、これらの演奏は彼の生涯を通じた中でも珠玉のものだと思う。先に名前を挙げた6人の若き才能とマイルスのコラボレーションが実に見事である。
この後はポップチューンに進んでゆくことになり、それはそれで良さはあるのだが、僕にはそうしたスタンダード路線よりも、アドリブを中心とした80年代前半のマイルスが好きである。そこには1970年代のいわゆるエレクトリック・マイルス、そして1960年代の黄金クァルテットの時代同様、何ものにも縛られない果敢な音楽があるからだ。
Miles Davis
"The Man With The Horn"
Miles Davis
"Decoy"
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