何年かぶりで映画館に行った。しかもミニシアターではなくいわゆるシネコンで上映されるロードショーである。川崎ラゾーナにある109シネマズに行くのは初めてだった。
今回観たのは「イースタン・プロミス」という作品。監督は「スキャナーズ」「ザ・フライ」などリアルな肉体損傷シーンで知られるデイヴィッド=クローネンバーグである。
この映画に興味を持ったのは、先々週に和歌山と神戸に行った際、新幹線に乗る前に立ち寄ったコンビニに置いてあった女性向けのフリーペーパーの記事を見たことがきっかけだった。小さな囲み記事での紹介だったにもかかわらず、なぜかそれは僕の興味を強く惹いた。こういうことはこれまでにも度々あったが、大抵はミニシアター系の作品であることが多く、なかなか実際に映画館まで足を運ぶまでには至らなかった。
映画の詳細は公式サイトを見ていただければと思う。タイトルの意味は、東欧で行われている少女を中心とした人身売買のこと。舞台は現代のロンドンである。僕の記憶では映画の中で太陽の光があたるシーンはほとんどなかったと思う。
この作品では、従来のクローネンバーグに必ず出てくる暴力的な怪物などは出てこない。出てくる怪物は人間社会が形成した大きな組織である。タイトルにはそうした組織の「掟」という意味も重ねられていると思う。
とにかくこのところほとんどメジャーな映画を見ていないので、出演する役者のこともよく知らないまま臨んだわけだが、主演のヴィゴ=モーテンセンの演技はいろいろな意味で素晴らしかった。そしてもう一人の主人公で、ソ連製の大型バイクを転がす助産師を演じるナオミ=ワッツも魅力的だ。後にプロフィールを見て知ったのだが、彼女はピンクフロイドのサウンドエンジニアを勤めたピーター=ワッツの娘らしい。そこにもこの映画との何かのつながりを感じた。とても今年で40歳なる女性には見えなかった。
この作品は日本ではR-18指定でいわゆる成人映画になっている。作品のテーマを考えれば、もう少し年齢を下げてもいいのではないかとも思わないでもなかった。現代社会においては。高校生にもなればこのくらいの価値をしっかりと受け止められる人間で本来はあるべきではないか。
監督お得意のバイオレンスシーンも劇中いたるところに仕掛けられている。今回は妻も一緒に観に行ったのだが、あとで聞くとその辺はかなり目を細めての鑑賞だったらしい。見せ場は公衆浴場での乱闘シーンだが、詳細は観てのお楽しみだ(かなりの内容なのでそれなりの覚悟が必要ではある)。
全編を見終わった直後は何か物足りなさを感じるのも事実だが、そのことが却って後々作品のことを振り返らせ、味わいを深めさせてくれる。ラストで交わされるキスシーンは実に見事だ。
久しぶりに大きなスクリーンで観たということも手伝ってか、2人とも心に強く残った映画であることに異議はなしというのは共通の感想であった。僕が最初にフリーペーパーで知ったときに受けた印象とはかなり違った内容のものが深くあとに残った。それは暴力とか人身売買はいけないという様な単純なものではないと思う。人間やその社会とはこういうものだという表現、それがこの作品の第一義にある。
「イースタン・プロミス」公式サイト
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