ブルーノート東京にまたマイク=スターンがやってきた。僕の記憶では、お店がまだ骨董通りにあった頃から毎年のようにやってきていて、お店の恒例行事の様になっている。
僕が勤めている会社の中国にある現地法人から、東京の本社に一人の中国人女性が研修でやってきている。彼女はこの春から僕の職場にも数ヶ月間だけ顔を出すことになっていて、調査のお手伝いをしてもらったりしている。研修の目的自体は「本社での人脈作り」とか、いまひとつ判然としないところもあって、ちょっと気の毒に思えるところもあるのだが、彼女は彼女なりに日本の生活を楽しんでいる様なので、まあいいのかなと割り切ることにしている。
短い期間では仕事で具体的に教えてあげられることもあまりないので、日本や東京そのものをいろいろ体験してもらうことも、その大雑把な研修目的からすれば案外はずれていないだろうと思い、いろいろなところに連れていってあげようと思ったのだが、実際にとなるとなかなか実現するのが難しい。
ちょうど仕事が一段落したこともあって、彼女をブルーノートに連れて行ってあげることにした。ジャズのことはあまりよく知らない(当たり前か)ようだったが、マイクの音楽はある意味わかりやすいし理屈抜きに楽しめるだろうと思った。
今回も4人編成だったのだが、いつもと違うのはサックスではなくトランペットを入れていたこと。そのトランペットがランディ=ブレッカーだというのは今回のグループの大きな楽しみでもあった。リズムの方はドラムにデイヴ=ウェックル、ベースにクリス=ミンドーキーという組み合わせ(いずれもなかなかのイケメンである)。これならもういつもの盛り上がりは約束されたようなものだ。
久しぶりのブルーノート。前回いったのはもしかしたらマイクだったかもしれない。今回は2日目火曜日のファーストセット。お客はだいたい7〜8割の入りだろうか。後方のテーブル席に座ったのだが、4人掛けの席を2人で利用することができた。このお店もいろいろ苦労しながらも頑張っているようだ。
内容はいつもの「マイク流」ギグだった。新しいアルバムが出たらしくそこから2曲演奏したようだが、それも含めていつもと大きく変わり映えしない。アップテンポで始まり、少しずつテンポを落とした曲が3曲続いて、最後はおなじみのドラムソロを大きくフィーチャーしたアップテンポの曲で盛り上がる。何かこうかくと単調な感じがするかもしれないが、僕が期待していた内容はまさにこれなのだから、何も不満はない。
ランディのペットは思ったよりもずっと健闘していた。エレクトリックのエフェクターをかけた音色中心だったが、途中、マイクのギターと掛け合いで演奏されたバラードで聴いたナチュラルなオープントーンは、ビックリする程きれいだった。最後の曲では、テーマが複雑で明らかに練習していない感じのランディではあったが、それもまあご愛嬌だろう。
ウェックルのドラムも、前回のデニス=チェンバースとはまた違った意味でのスゴ技は健在で楽しめた。デニスの千手観音+勝手に変拍子はもちろん聴き応えも楽しみもいっぱいだが、正直マイクとの組み合わせでは、DVDも出ているのでやや食傷気味だったから、今回のウェックルはいい選択だった。
ベースのクリスははじめて生で聴いたが、これがまた素晴らしかった。ウッドベースと同じポジションのアプライト型ベースと、通常のベースギターを交互に使いこなしていたが、リズム演奏もソロ演奏も素晴らしく、とても気に入った。さっそくアルバムをチェックしてみようと思う。
前日の演奏がどうだったのかわからないが、ファーストセットにしてはなかなかの盛り上がりで、マイク自身も終始ご機嫌だった。"You are very beautiful! Tahnk you!"を繰り返しながらいったんステージを降りたものの、アンコールに応えてくれた。
珍しくウェックルがカウントをとったと思ったら、始まったのはブレッカー・ブラザーズ・バンドの名曲"Some Skunk Funk"だった。これには僕も意表をつかれてしまい、同行者のことも忘れて狂乱してしまった。ランディの超絶はここでも健在で、結果的には大満足なライブだった。ステージを去る通路でマイクの手を握らせてもらったが、柔らかくて暖かい大きな掌だった。
中国人の彼女もとても満足してくれたらしく、「やっぱり本物の演奏は違う」と喜んでくれた。北京でもマイクの演奏がこうしてたまに聴ける様になるのも時間の問題だと思う。音楽はビジネスと違って、難しいことを考えなくても広がっていくものだ。また次にマイクがやってきたら、僕は足を運ぶに違いない。
(おまけ)YouTubeからブレッカーブラザースの演奏する"Some Skunk Funk"を。ギターにマイク、ドラムにデニスという豪華版(どちらもソロはない)である。在りし日のマイケルと今回観たランディーの強烈なソロが楽しめる6分半の演奏をお楽しみください(要ヘッドフォン)。
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