涼しくなった。日本では今月2度目の3連休。初日の土曜日に久しぶりに妻と2人日帰りでちょっと遠出をした。いままで行ったところがないところということで僕らが向かったのは、房総半島の東京湾側いわゆる「内房」だった。
午前中に家を出発、電車で川崎駅に行って駅前のバスターミナルから東京湾横断道路を通って木更津に行く高速バスに乗り込んだ。所要時間は1時間。意外にも海底トンネルに入ってから、海ほたるを経て終点に着くまでには、それほど時間はかからなかった。この季節にしては暑い日だったが、日差しは真夏のそれよりはやわらかだった。
初めて訪れた木更津の街。少し前に映画で話題になったりしたので、若者の街というイメージを勝手に抱いていたせいか、実際に歩いてみて受けた印象は少しギャップを感じ、かつて栄えた海辺の町という感じだった。駅前の人通りは少なくのんびりした雰囲気がいやでもまとわりついてくる。駅から海側に向かって進んでみるとさびれたホテルが目立った。
港の先にある中の島大橋は気持ちのいいロケーションだったが、その先にある中の島公園は一面靴が隠れてしまうくらいの深い草に覆われ、都会の整備された公園の雰囲気とはまた違った懐かしいにおいがした。係留場につながれた数十隻のヨットが静かな波にだるそうに揺られ、マストに帆を張るロープの金具がぶつかって、乾いた金属音がランダムに響くのを聴くのが気持ちよかった。
木更津駅に戻ってそこから内房線に乗ってさらに南へ、浜金谷駅に向かう。途中車窓からの景色は海沿いのそれになり、一層田舎度合いを深めた。こういう景観をみるとなぜか心が晴れる。海は自然である。
浜金谷を目指したのはそこから横須賀市の久里浜に向かうフェリーに乗るのが目的だった。それだけだとつまらないので、近くにある景勝地「鋸山」にロープウェーで登った。高度300メートルちょっとを所要時間3分と少しで行き来する路線が、往復で900円もする。山上の駅に着くといきなり電気仕掛けの子供向け遊戯具が迎えてくれる。観光業もあの手この手と大変である。
鋸山はかつて建築用の石材を切り出す採石場であり、その跡が山肌を鋸のような形にしていることからその名前がついたらしい。山の上にはそうした石切り場を巡る山道が観光用に整備されている。
巨大な岩壁に大仏が彫られており、それを奉ったお寺(なぜか日本寺という)があるのだが、その大仏をはじめとする一連の採石場跡を見物するためには、寺の境内だということで拝観料600円を払わねばならない。時間がなかったというのもあるが、僕としてはそんな拝観料なら遠慮するよという思いで中に入るのは辞退した。山上のロープウェー駅の上にある展望台からの眺める景色も十分素晴らしかった。
ロープウェーで下に降りそのままフェリー乗り場へ。少し土産物を見たりしながら、時間にあったフェリーに乗り込んだ。人間だけなら大人600円というのは割と安い気がした。少なくともさっきの拝観料よりはずっといい。40分と少しの航海だったがちょうど日没の時刻に重なり、東京湾に沈む夕日と湾内を行き来するいろいろな船を見ながらのクルーズを甲板で楽しんだ。
フェリーは比較的混雑していた。途中、湾内で何隻もの船を見かけた。大きなコンテナ船やタンカーもあり、陸上の休日とは無関係に活動する東京湾の一面がうかがえた。大きな船の姿は僕に夢とか勇気に似たような感情を運んできてくれるように感じる。海と船はロマンに満ちている。空や宇宙もいいけど、僕にはやはり海が一番そういうものを感じられる。
金谷港で停泊しているときに船の周りを飛んでいたウミネコが、航海中もずっと船と一緒についてきてくれた。久里浜の港に入るとみんな水面に降りて一休みしている様子は、とても愛らしかった。彼らがそこで一夜を明かすのか、また一休みして金谷に戻るのか、それともまったく別のどこかに行くのかはわからなかった。
久里浜港に降りるともうすっかり暗くなっていた。普通だったらバスか何かで駅に向かうところだろうが、多少は土地勘があったので僕等は歩いて久里浜駅まで行った。そのままどこかで食事をして帰ろうかということになったのだが、結局のところ電車と徒歩で平間まで戻ってきて、近所の焼肉屋で遅い夕食をとった。山と海の空気をたくさん吸って歩いた後のビールと焼肉は格別だった。
あとで地図を見てわかったのだが、この日僕等はちょうどダイヤモンド型に東京湾を巡ったことになる。こうした遠出をしたのは久しぶりだった。内房は東京からはかなり遠く通勤をするにはちょっと無理があるところだが、三浦や湘南の海岸とはまた異なる趣はやはり僕にはしっくり来るものだった。どうせ住むのならやはり海辺でのんびりと暮らしたいものだという気持ちは十分に感じられた。海はいいものだ。
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