9/09/2007

ピーター=コウォルド「オフ ザ ロード」

 夏休み前にアランの店で買った、ピーター=コウォルドのドキュメンタリー「オフ ザ ロード」について。

この作品は2枚のDVDと1枚のCDをセットにしたもの。いずれのディスクにも、ピーターが亡くなる2年前の2000年に行った全米ツアーの模様が収録されている。ツアーに同行した映像作家ローレンス=プティジュヴが記録した。

1枚目のDVDがツアー全行程を72分間にまとめたドキュメンタリー映像「オフ ザ ロード」で、同名のCDにはその中から8つのパフォーマンスがフルヴァージョンで収録されている。もう1枚のDVDは「シカゴ インプロヴィゼイション」と題された映像で、同ツアー中にシカゴで行われたライヴとスタジオセッションの模様を中心に構成された83分間の作品である。

ピーターについてはこれまでに2度このろぐで取り上げている。僕のお気に入りのベーシストであるが、彼の音楽スタイルはいわゆるフリーインプロヴィゼーションなので、演奏に対する印象にはやはり偏見が付きまとうことだろうと思う。

一つだけ書いておきたいのは、フリーといえどもそれぞれの演奏には明確な音楽的モチーフ(テーマ)、それもかなり簡潔なそれが存在する場合がほとんどだ。演奏はそれを土台に、演奏者の想像力と技量を自由に注ぎ込んで発展させてゆく。そのことを知っていれば、さほど聴くことに難しさはないのではないかと思う。その意味では映像のある演奏を聴く(視る)方が敷居は低いかもしれない。

もちろん優れた演奏やそうでない演奏は玉石混交であるが、それはどのようなジャンルの音楽についても共通のことだ。フリーミュージックのことを、取りとめのないものとか、難解なもの、あるいは滅茶苦茶なものというのは、外見で人を差別するようなものだと僕は思っている。ある意味において、こんな緻密で、人間臭い音楽は他にない。月並みだが、僕がこうした音楽を愛する一番の理由はそこにある。

全米ツアーといっても、もちろんショービジネスとして行われる総勢百何十人で機材何トンとかいうものとはまったく異なる。映像はドイツからニューヨークのJFK空港にベース1本と手荷物で降り立ったピーターとローレンスが、タクシーでマンハッタンに入るところから始まる。ブルックリンブリッジ(たぶん)を渡る車窓からの映像に、はっきりとワールドトレードセンターが映し出される。時は西暦2000年である。

そのままダウンタウンに入ったところでタクシーを降り、翌朝ピーターがまず行うのは中古自動車の情報が載った雑誌に目を通すこと。向かった先は壁に"Cheap Cars"と書かれた中古自動車屋である。そこでベースを積むことができるバンを品定めし、怪しげな(といっては失礼か)店主の前にお金を並べ、それを店主が数えて商談成立のシェイクハンドとなる。ピーターの全米ツアーはここから始まる。

大体の雰囲気はご想像がつくと思うが、これはいわゆるロードムービーである。ニューヨークからシカゴ、アトランタ、オースティン、サンフランシスコなど全米の主要都市を車1台で周るのだ。ローレンスの映像もほとんど家族旅行の記録に近いタッチになっているのだが、随所にさすが映像作家と思わせるカットが散りばめられている。

各地で繰り広げられる奇想天外な音楽セッションの合間に、コンビニで買い物をしたり、道端のカフェで食事をしたり、自動車の修理屋に立ち寄ったり、友人宅で談笑したりする様々なピーターの日常が挟み込まれる。一方で、道すがら出会った人々にもしっかりとカメラとマイクが向けられ、映像を見るものにも旅全体の雰囲気が味わえるように工夫されている。そこに映されたピーターと彼の周囲を取り巻く世界は、やはり素晴らしい人間性に溢れている。

僕が初めてアメリカに行ったのは1994年頃だったと思う。以来もう十何年も行ったことがない。こういう自動車を使った旅というのもいいかもしれない。でもいまの僕にはこれだけの運転する自信は到底ない。ならば列車の旅でもいいのかな。地に足の着いた風を感じられるアメリカ旅行がしてみたい、ふとそんな気分になった。

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