1/13/2007

キース=ジャレット「サンベア コンサート」

 前回は、「サンベア コンサート」について、ほとんど触れずじまいだったので、あらためて今回この作品について触れておこう。(同時に前回のタイトルを変更した。ご了承願いたい)

この作品がECMから発売された当時、僕はまだ中学生になったばかりだった。その頃はLPレコードの時代で、「キース=ジャレットがLP10枚組のピアノソロ作品集を発表」という記事を、たぶん「FMレコパル」誌か何かで見たのだと思う。当時の僕はほとんどプログレ少年だったし、キースの名前を知ったのはこれがきっかけだった。

作品はほどなくしてNHKのFM放送(たぶん平日午後4時10分からの「軽音楽をあなたに」だったと思う)で放送され、僕の兄がカセットデッキで録音していたのを憶えている。兄がそれを何回か聴いたのかどうかは知らない。いつの間にかそのテープには他のものが録音されていて、キースの演奏は消えていた。僕が当時その音源を耳にしたのかどうかも、いまはほとんど憶えていない。

前回にも書いた通り、この作品は1976年のソロツアー日本公演の模様を収録したもの。ライヴ盤と言うよりドキュメンタリーの様なものだ。CDになって、それが収録日別ごと1枚ずつに整理され、とても聴きやすくなった。僕がこの作品を手に入れたのは2年ほど前。アマゾンかなにかで国内盤初回の中古を安く手に入れた。よくわからないが「初回特典オリジナルエッチングプレート」なるものがついていた。

「サンベアコンサート」をちゃんと全部聴いた人は、僕の周りではたぶん2人しかいないと思う。いずれも大学時代のバンド仲間だが、そういう人たちともこの作品についてじっくり意見を交換したことはまだない。少し前に一度だけ、この作品ではどの日の演奏がいいか、ということを少し話したことがあった。実はその頃はCDを買っていたものの、僕はまだすべてを把握できていなかった。確か、Disc4の東京かDisc5の札幌かどっちかだね、などと話したのを憶えている。

6時間以上におよぶピアノ即興演奏。今回じっくり聴いてみて、やはりどれがいいというのは決められないなと思った。その日ごとのキースの調子のようなものを感じたかと思うと、別の日に聴いてみると全然違った聴こえ方がして、実はそれが自分自身の調子だったのかなと考えたりする。こんなことを言っているうちは「すべてを把握」なんていうのはバチ当たりか。

最近のキースは(おそらくは「メロディ・・・」を境に)、ソロ演奏の単位を数分の比較的短いピースにまとめるようになったが、この頃は一度始めると止まらない様子で、30〜40分間の絵巻物を見るような演奏である。確かに、最近の演奏の方がコンパクトな分、より緻密でかつ多様性に富んだ演奏になっているように思う。この作品に限らず、ケルン、パリ、ウィーンなど同時代の多くのソロ演奏は、比較的共通した雰囲気を持っている。

別の言い方をすれば、どの演奏にも開始早々に聴くものを釘付けにする力を備えている。いまの僕には、それぞれの演奏が違った何かを見せてくれるというよりは、同じ宇宙を感じさせてくれるという印象を持つ。だからどの演奏がいいということを考えるのは、あまり意味がないのだろうと感じている。

ややおこがましいかもしれないが、演奏の世界に入ると自分がキースと同じ目線になってくる。ピアノの演奏ができる人には、そう聴こえて当たり前なのかもしれないが、白と黒の鍵盤が頭の中に浮かび、やがてそれは目の前に広がる。それがキースの存在というより、ピアノの存在あるいはピアノの魂というふうに僕には感じられる。

年末以降今日に至るまで、いろいろなスタイルではあったが、ここに収録された演奏を聴くことができたのは幸せだった。少々高価なセットであるのは難ではあるが、その価値は十二分にある。お試しください。

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