4/23/2006

ダラー=ブランド「アフリカン スケッチブック」

 先週の土曜日、会社の同僚の結婚披露パーティに招かれ、日比谷の帝国ホテルにおもむいた。新郎は僕の部下で、数ヶ月前に僕が頼んでいまの職場に連れてきた男である。現在の職場の上司として、社長と僕が招かれ、社長は乾杯の発声を、僕は新郎紹介のスピーチをさせてもらった。

帝国ホテルの披露宴に出るのは初めてだった。新郎から披露パーティに出席して欲しいと言われた際、場所がそこだと聞いたので、お祝いしてあげたいという気分よりも、おいしい食事と酒が飲めるぞと喜んだのだが、それも束の間、スピーチを頼まれて少しがっかりした。スピーチが終わるまでは、酔っぱらうわけにはいかないし(そもそも披露宴で酔っぱらうものではないが)、緊張して料理と酒が楽しめないではないかと心の中でもがいた。

最近、なかなかこういう席にお招きいただく機会はない。年齢の近い知人や友人は、随分前に結婚して子供がいるか、いまだ結婚せぬままかのいずれかだ。一番最近出席したのを思い出してみると、もう4年前になる。それも当時の職場の後輩の結婚披露宴で、この時は明治神宮にある明治記念館が会場だった。

当時の僕の上司が新郎の上司でもあり、その時は彼がスピーチを担当したのだが、順番がかなり後ろの方で披露宴全体の雰囲気もなかなかフォーマル色の強いものだっただけに、彼の緊張は長く続き、あまり食事を楽しむどころではなかったようだ。その隣で、次々と料理を平らげ、職場の同僚等にジョークを飛ばしながら、水割りのおかわりを連呼する僕の姿をみて彼は言った「おめえはいいよなあ、気楽で」。

今回は僕の番かと、少し罰当たりな気持ちで臨んだのだが、パーティそのものはこじんまりとした雰囲気で、僕が司会の方からスピーチの呼び出しを受けたのも、コース料理の最初の皿を食べ終わった頃だった。

こじんまりとはいえ、やはり知らない人中心の場で何かをしゃべるのは緊張する。内容は少しネタをそろえてあったのだが、冒頭にご両家へのお祝いを述べたり、新郎と自分の関係を紹介したりすることなどについては何も考えていなかった。おまけに、緊張を和らげようと、乾杯のシャンパンを一気飲みして、ビールも飲んでいたので、ご指名を受けた時は少し頭がぼっとしてしまった。

そのあたりを即席でなんとか間に合わせて切り抜け、あとは幸いなことに用意していたネタがそこそこにウケたので、結びに自分からのアドバイスと称して、家事を分担しましょうとか、IT時代のお互いのプライバシーは十分尊重しましょうとか、訳の分からないことを並べてスピーチを無事に(?)終えることが出来た。まあ75点というところか。

終わってしまえばこっちのもの。あとは料理を堪能しながら、新郎の以前の職場の同僚らとおしゃべりしつつ、水割りコールを連呼した。僕はどうもこういう祝いの席ではワインなどに手が伸びない。料理のことを考えればワインなのかもしれないが、ウィスキーの水割りも意外にいろいろな料理に合うものである。水割のおかわりが運ばれてくる度に、僕の隣に座った新郎の元上司の女性マネージャは笑い、その声は杯を重ねるごとに大きくなっていった。

書くが後になってしまったが、新婦は非常に綺麗で明るくしっかりとした一面も持ち合わせた人だった。僕の後に行なわれた新婦の大学時代の友人によるスピーチを聞いていて、なかなか活発な方なのだなと思った。僕は席の関係で彼女の真っ正面に座ったので、最初少し緊張してしまったが、後半に入ってお色直しやスピーチが一段落した頃には、こちらの酔いもいい感じになってか、とても和やかな雰囲気のパーティとなった。

今回の作品を演奏しているダラー=ブランドは、現在アブドゥーラ=イブラヒムというイスラム名に改名した南アフリカ出身のジャズピアニスト。この作品は1969年に発表されたenjaレーベルとの契約における最初のアルバムで、内容は全編彼のソロピアノ(冒頭でフルートも演奏)となっている。

僕はこの作品を割と最近になって購入した。渋谷のディスクユニオンに行ったときに、店内で流れていたのを聴いて興味をもった。ブランドの名前は以前から知っていたが、あまり音を聴く機会はなかった。たまたま耳にしたその音楽は、独特のタッチとフレーズがとても印象的なピアノである。僕にとっては、音が遠くに広がっていくようなイメージがして、いつも気持ちよくさせてくれる。この季節に聴くのもいい。

結婚は人生のなかで大きなポイントであることは間違いない。だけどそれがどういうポイントなのかと言われても、答えは人それぞれとなるはず。でも共通して一つ言えるのは、それが皆でお祝いをしてあげる価値のある、人生に必要なポイントだということだ。それはいつ起こったとしても構わないのだ。理屈で迎えるものではないのだから。

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