4月はいろいろなものが動く。お正月よりもずっと街は新鮮な空気に満ちあふれる。そして桜。東京では開花期間中、あまり大きな天気の崩れもなく、比較的長く花が楽しめた。
修理に出していたベースを先週末の土曜日に引き取りに行った。大塚駅を降りた2回目である。工房に行く前に、腹が減ったので駅前にあったラーメン店「ホープ軒」に入った。ホープ軒は有名な老舗。コクのある豚骨スープと背油を特長とした、いわゆるラーメンマニア的なラーメンの元祖と言ってもいいかもしれない。
僕が就職して東京に出て来た日、最初にしなければならなかったのは、独身寮への入寮だった。あらかじめ最低限の荷物を届けておいて、入社式の行われた月曜日の前日に行われた入寮式に間に合う様に上京したのだった。といってもこちらで頼る人はいなかったから、大学時代に付き合いのある男の家に前日に転がり込んだのだった。
彼の家は中央線の武蔵小金井というところにあった。詳細は書かないが、彼は僕の出身大学の医学部に在学していて、あることで僕と知り合う様になった。そして、知り合って2年たって突然、東京大学の医学部を受験し、合格してそちらに移っていったのだった。現在は立派な医師として活躍している。
彼の案内で千駄ヶ谷の「ホープ軒」に連れていてもらったのを憶えている。彼が好きだったマンガ家の作品にこの店が出ていたからだった。味ははっきり言ってあまり憶えていなかった。学生時代によく通った豚骨ラーメン店に大阪摂津市の「珍竜軒」というのがあって、正直そちらの方が上手いと感じたと思う。あの頃は大盛りラーメンにおにぎり2個を平らげていたなあ。
以来僕はホープ軒には行ったことがなかった。このお店は千駄ヶ谷や吉祥寺などいくつかのお店があって、いろいろと本家騒動などがあったのだそうだ。大塚のホープ軒がどういう位置づけかは知らない。千駄ヶ谷は立ち食い店だったが、大塚は比較的小さな吹きさらしのカウンターが十数席というお店である。電車の中から看板が見えたので僕はそこに入ることにした。
久しぶりに食べたホープ軒の味は、やはり油が強いラーメンだった。しかしずいぶんと時代を感じさせる味だった。深みとかいうことではなく、素朴な豚骨ラーメンとでもいうか、最近のラーメンマニアはこういう味にはおそらく厳しい評価しか出さないんだろうなあ。
さて肝心のベースだが、不具合は見事に直り、まっさらな指板に生まれ変わって帰って来た。写真は工房のサイトに掲載されたものを拝借した。工房の長瀬さんにお礼を言ってさっそく自宅に持ち帰り弾いてみたのだが、仕上がりに少し納得の行かない部分があった。楽器は生き物なので、とりあえずちゃんと弦を張った状態で1週間家で使ってみて、それでも問題が変わらなければもう一度もって行くことにした。
4月から組織替えや人事異動などで、顧客側も自分のチームも新しくなったので、この1週間はその対応やら月例で引き受けている原稿書きやらに追われて慌ただしく過ぎた。結局、ベースの調子はあまり変わらないので、素人が手を出すものではないと思い、今日再び大塚の工房を訪れた。
また預けることになるのかなと思いながらの訪問だったが、工房ではすぐに診てくれて再度調整をしてくれた。まあネックのそり具合の調整が、工房で想像していたのと少しズレていたことが原因だった様で、30分程の調整で無事に問題点はクリアされた。出来上がったベースを弾いてみると、弦高、バランス、テンション(弦の張りの強さ)など、すべてが完璧になった。さすがだ。
こうして修理が完了したベースを持って工房を出た。ついて来てくれた妻と一緒に、大塚駅前の尾道ラーメン店「麺一筋」に入った。尾道ラーメンと名乗るお店にはこれまで2回入ったが、正直いい思いをしたことがなかった。これでダメならもう行かないだろうなあという思いだったのだが、このお店のラーメンはとても美味しかった。スープも麺も気に入ったし、煮卵が絶品である。行き当たりで入った様なものだったのだが、またいいラーメン店が1つ見つかった。
2週間かけてリフレッシュした楽器を持ち帰り、これでようやくベースに打ち込むことが出来る状況が整った。新しい楽器を買ったよりも新鮮な気分である。まあゆっくり着実にやって行こうと思う。
今回の作品はエレキベースを弾く人なら誰でも知っているというか、聴いておくべき作品だ。もう30年も前の作品になるのか。僕が初めてジャコを聴いたのはベースを始めた14歳の頃だった。せっかく買ってもらったベースは、ジャコに衝撃を受けて1年もしないうちに自分でフレットを抜いてしまった。いま考えればひどい話である。
1曲目の「ドナ リー」からもう腰が抜ける程の衝撃だった。これがベースか。ジャコは技量ももちろんだが、ベースが主役になるというカッコよさは、ベースを演奏する者にはひときわ強く印象づけられたものだ。壮絶なベースソロが美しい「コンティニューム」、驚異のハーモニクス演奏「トレイシーの肖像」などなど、いま聴いてもあの衝撃は忘れることはない。
このアルバムでパーカッションを担当するドン=アライアス氏が先日突如亡くなってしまったのだそうだ。66歳だった。彼はマイルスの「ビッチズブリュー」をはじめ、いろいろな作品にセッションドラマーとして参加した。彼が参加した演奏をいったい僕は何曲持っているのか知らない。1970年以降の新しいジャズのシーンにおける数々の重要作品で彼の演奏を聴くことが出来る。まだ高齢というわけでもないのに、残念である。
今回の作品も含め、彼の偉大な記録はこれからも聴き続けられるだろう。新しくなった楽器を手に、僕も久しぶりにこれを聴いてみて、精神がリセットされる想いがした。
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