9/24/2005

ビル=フリーゼル「イースト ウェスト」

  先の火曜日、はじめて胃の内視鏡検査を受診した。いわゆる胃カメラである。定期健診の超音波診断をした医師から一度受けておいた方が良いといわれ、ふーんそうなんですかと、言われるままに予約を入れたのだ。おかげで、先の三連休最終日の夜は10時で食べ物もお酒も水もおしまい、当日の朝はもちろん何も口にできない。やはり朝食抜きではいまひとつしゃんとしない。

 いったん出社して、予約の時間になって職場近くの病院に出向いた。気分はあまりすぐれなかったけど、ここの看護士さんは素敵だなあなどとキョロキョロしていると、すぐに名前を呼ばれて検査が始まった。先ず胃の中を泡立てるとかいうことで、ゼリー状のものを1ショット程飲まされる。と思ったら「はい、アーンして」と看護士さんに促されて、アーンすると喉の奥に麻酔薬を噴射された。これが結構しみると思ったらすぐに喉の感覚がおかしくなった。

 すぐに寝台に横になって、口にプラスチックのリングをはめられると、あのテレビで観た黒いチューブ状の主役が現れた。太さは1センチ弱位か。「じゃあ入れていきますよー」とヴェテランらしい女医さんがチューブを入れていく。脇のモニターに僕の咽頭、食道、胃の様子が映し出される。我ながら、なかなかきれいなものだなと思った。

 正直、胃の中まではあまり強い違和感はなかった。ところがチューブはやがて胃を出て十二指腸に達し、そこで腸壁のひだを撫でるようにゴニョゴニョと動き始めた。この時はさすがに腹の中をかき回されているようで、思わずうなり声をあげてしまった。場所的にはちょうどお腹の真ん中あたりである。「はーい、十二指腸もきれいですよお」と言われたが、安心と不快感がせめぎあう奇妙な感覚で、早く終わってくれぇと心の中で叫んだ。

 結局、検査結果としては異常なしであった。日頃の飲酒に加えて、前の週が特に飲みまくりだったので、内心不安も少しあったのだが、ひとまず安心である。具体的に自分の胃の中を見てしまうと、空きっ腹にハードリカーはいけないなと、まさに身を以て感じた体験であった。

 この一週間は蒸し暑くもあり、朝の気温が低くなりで、結局途中から軽く風邪をひいてしまった。幸い、大事には至らず、いまではほとんど回復している。出勤が3日間しかなかったのが幸いだった。

 さて、このところ好調な新着CDから、今回はジャズギタリスト、ビル=フリーゼルの新作をご紹介しよう。2枚組のライヴ盤で、タイトルに表されるようにアメリカの西海岸東海岸のジャズクラブでの演奏を、それぞれ1枚ずつに収録してある。ウェストは、前回でもとりあげたオークランドの「ヨシーズ」での演奏(ここは随分繁盛してるんだなあ)。イーストはニューヨークの老舗中の老舗「ヴィレッジヴァンガード」での演奏である。いずれもベースとドラムによるトリオ編成で、ビルはエレキギターとギターシンセサイザーを彼なりの手法で弾きまくる。

 ビルについては、彼が参加している作品をこれまでにも既に何度かとりあげている。最近ではマーク=ジョンソンの作品を、その少し前にはポール=モチアンの作品をとありあげた。つまるところ、僕はビルの大ファンなのである。

 ビルの音楽はメロディーやハーモニーの点でもかなりユニークであるのだが、とりわけリズム(=時間)の感覚が際立っていると思う。それがまた日本でいまひとつ彼の人気が盛り上がらない理由のように思う。

 日本でフュージョンミュージックの洗礼を受けた人で、楽器演奏をかじった人は多い。彼等の多くに共通する音楽観は、音楽を楽譜に対して縦に分けて考える傾向が強い。五線譜を与えられた時、それが四分の一、八分の一、十六分の一などと、縦に整然と分割されていることを強く意識する傾向があるように思う。そこから、裏打ち、三連、六連、変拍子と展開していくわけだが、あくまでも規則的で数学的な展開を好む。これは僕の個人的な見解だけど、音楽観としてシンプルではあるが、ある意味で狭いと思う。

 ビルの音楽は(メロディーやハーモニーも含めてのことだと思うが)、時間が楽譜に対して横に膨張したような感覚がある。その独特のグルーヴ感(いわゆるノリ)は、明確なビート感覚や小節割りを超えたところにあるように思う。僕は音楽を聴くとグルーヴに合わせて頭を縦に揺らす癖があるのだけど、彼の音楽では規則的に頭は揺れず、浜辺に打ち寄せる波の様に、不規則な大きなうねりを描いてしまう。そこが彼の音楽の灰汁の強さとでも言おうか、大きな魅力なのである。これがハマると、なかなか心地よく病みつきになる味なのである。しかし僕の周囲でビルが好きだという人には、残念ながらあまりお目にかかれない。

 今回の作品では、アメリカの西と東での微妙な地域的ジャズテイストの違いが少し反映されているようにも思えるが、通して何度も聴いてみると、あたかもこれが一つのステージであるように聴こえてくるから不思議である。

 コロラド州のデンバーで幼少期を過ごし、その後ブルースギターに憧れてシカゴに行くという経歴が、そのままストレートに彼のギターの基盤にある。そのことは聴いてみればすぐにわかると思う。彼は変態的フリーギタリストではなく、非常にしっかりとしたアメリカンミュージックをバックグラウンドに持った演奏家なのである。そのことは、この作品の至る所ににじみ出ていると思う。やはり人間はアイデンティティがないといい仕事はできない。

 ようやく秋の気配がはっきりしてきた。検査も済ませ、体調もよくなって、また音楽と酒に拍車がかかる季節に突入する。ああ、そうそう、僕は先週で41歳になりました。皆様のおかげです、ありがとう。これからもよろしく。

The Offocial website of Bill Frisell ビルの公式サイト

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