9/04/2005

マーク=ジョンソン「ベース デザイアーズ」

  しばらく運動不足の状態が続いたので、この土曜日はちょっと遠くまで歩くことにした。今回僕らが選んだ行き先は代官山(東京都渋谷区)である。11時過ぎに二人で自宅を出発。相変わらず蒸し暑くて日照も強い天候だったが、真夏のそれに比べると少し勢いがマイルドになっているのはわかった。シューズはトレーニング用の軽くて通気性の高いものを履いて出たので、いつもより足が軽く動く。

 地図でざっと確認して決めたルートは、自宅がある川崎市中原区のガス橋付近から、橋を渡って東京都大田区に入り、そのまま川沿いを北上して丸子橋まで行き、東急東横線多摩川駅から沿線を歩いていくというもの。これだと途中で疲れてしまっても、電車にすぐ乗ることができるし、沿線はいろいろなお店などもあって、それらをながめたりしながらぶらぶら気分で行ける。総距離はおよそ15kmというところだろう。まあ僕らにしてみれば中距離のウォーキングである。

 予想通り、蒸し暑さを感じつつも足取りは調子よく運んだ。頭のなかで奏でたBGMはマーク=ジョンソンの「サムライ ヒー ホー」、今回の作品のオープニングナンバーである。この作品は1985年のもの。マークについては、かつてビル=エヴァンスの作品を採り上げた際に少し触れた。長らくサイドメンとして研鑽を積んだ彼が、はじめて制作した自身のリーダー作品である。

 メンバーはドラムにピーター=アースキン、そしてビル=フリーゼルとジョン=スコフィールドという変わり種ジャズギター侍2人をフロントに据えた、とても風変わりクァルテットである。これが発売された時、僕はそのメンツを見るなり、すぐお店に電話で注文を入れた。内容はいま聴いても非常にオリジナリティに溢れる超モダンジャズである。

 「サムライ ヒー ホー」はタイトルからわかるように、日本のイメージをテーマにした作品。4分の6拍子のリズムに乗ってオリエンタルなメロディーが軽快に歌うとても楽しい曲である。持ち前のブルースフィーリングを織り込みながら、時折4分の4の調子で踏み外しそうにも聴こえるスリリングなソロを展開するスコフィールド。そして印象的なインターヴァルに続くフリーゼルのギターシンセサイザーソロは、彼の演奏のなかでも代表的な名演だろう。強力なリズムセクションに支えられ、音符とは無縁のところで自由に音のキャンバスを埋めてゆく様が気持ちいい。

 さて、東急多摩川から田園調布、自由が丘、都立大学、学芸大学と沿線を巡るウォーキングは、なかなか快調に運んでいった。途中、水分を補給したり、沿線のいろいろなお店に入ったりしながら歩いたので、時間は1時半になろうとしていた。何かお昼ご飯をということになり、このところブームになっているカレーのことを考えて思い出したのが、祐天寺駅前の「ナイアガラ」である。

 このお店はカレーのお店というよりも、鉄道マニアのお店として全国的に有名なお店。テレビにもよく出てくる。店頭にあしらわれたD51のプレートを目印にお店を見つけると、自販機で食券ならぬ乗車券を購入。店内は昔の客車用のボックス席をそのまま使った座席とカウンター席があり、僕らは昔懐かしいボックス席に座った。

 食券を渡すと「注文です」とは言わずに「3番さん発車します、急行2枚です」ちなみに急行とは中辛のこと。壁一面には駅や列車の様々なプレートなどが貼られていて、卓上の花差しやナプキン入れ、塩や胡椒の小瓶などもかつての特急電車の食堂車で実際に使われていたものである。そして圧巻は、厨房からボックス席を囲むように壁伝いに敷設された線路。なんと注文したカレーは、ボックス席の客には、この線路を走る鉄道模型の機関車「ナイアガラ号」によって運ばれてくるのだ。

 このお店のカレーは、昔懐かしい家庭のカレーライスである。やわらかいジャガイモが入っていて、味は最近売られている市販のカレールーに比べると、一口目には少し薄く感じられる。日頃、辛いカレー濃いカレーと考えていた僕は、最初は「うーん薄いかな」と思ったのだが、結論としてはなかなか美味しいのである。そこはやはりカレー屋さんであり、単なる鉄道マニアのお店ではない。

 おかげでお腹はいっぱいになった。車掌に扮した店長さんがとても感じの良いおじさんで、お店を出る時に入店記念と称して、昔の硬券を模して作ったナイアガラ入場券と、駅のスタンプに日付を入れたものを紙に押して渡してくれた。

 さて、そこから一気に中目黒を通って目的地の代官山までは30分ほどで到着した。時間は3時になっていた。この街は僕は結構好きな場所である。若さももちろんだがあまり気取らない品がある。お店の入れ替わりは実は結構激しいのだが、いつも変わらぬ落ち着いた雰囲気がいい。平日ならきっともっと気持ちよく買物ができるのだろう。

 雑貨店で熊さんの形をしたペアのスパイス瓶を買って、あとは界隈のお店をざっとながめ、そのまま東横線に乗って帰路についた。足はさほど疲れた感じはなかったが、家に帰って軽く夕寝のつもりが、二人ともぐっすり寝てしまった。まあ久しぶりにちょっとした運動はできたし、いろいろなお店に行けたので、安上がりで満足な一日だった。

 しばらく新作のなかったマークだが、ECMから今月新作がリリースされるらしい。楽しみである。

(追伸)
 ところで、祐天寺のカレー店「ナイアガラ」の店名の由来をご存知の方がいらっしゃれば、コメント欄かメールにてご一報いただければ幸いである。自宅に戻って妻とその話になり、ネットでも調べてみたのだがこれが意外にもわからない。とりあえず2人で考えたのは以下の仮説であります。

説1.蒸気機関車の煙が後方に長くたなびく様を鉄道マニアが「ナイアガラ」と称することから
説2.カレーを皿に盛りつけた様がナイアガラの滝を彷彿とさせるから
説3.レールが店内をぐるりと囲むように配されている様子がナイアガラの滝のようだから

まあ、店長に聞けば済む話なのだろうけど。

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