テレビドラマ「優しい時間」が終わり、ほのかな暖かみのある優しい感想とともに、わが家に小さなコーヒーミルが残った。ドラマを見ている途中でどうしても欲しくなって、楽天で注文して購入したものだ。相変わらずミーハである。学生時代に住んでいた寮の先輩がミルを持っていて、手挽きの豆でコーヒーを飲んだのはそれ以来かもしれない。コーヒーは大好きなので、以前から心のどこかで欲しいなとは思っていたのだと思う。
コーヒーを「挽く」という表現がいい。コーヒー通は「煎る」「挽く」「入れる」の3つにこだわらねばならないのだそうだが、まあ僕は(いまのところ)通ではないので、「挽く」ところを少し自前でやってみたというにすぎない。それでもおかげでとても美味しいコーヒーが飲めることがわかった。自家焙煎は個人でやるのはちょっと大変そうなので、僕のコーヒーへのこだわりは当面はここまでだろう。豆の種類にうんちくをするなら、いろいろな音楽を探しまわる方がいいと(いまは)思っている。
以前、音楽仲間の友人と2人でセッションをした後、いつものように中華料理とビールを楽しんで、じゃあコーヒーでも飲んで行くかとなった時に、彼は「スターバックスとかのコーヒーじゃないコーヒーが飲みたいよ」と言った。この発言の意味するところは、僕にもなんとなく共感できた。ここでコーヒー談義をするつもりはさらさらないが、それはコーヒーの豆や、煎る挽く入れるの問題が半分、あとはお店の雰囲気とかシステムとでも言おうか、そういう問題なのだと思う。
街並みがチェーン店の看板に占領されて行くのが残念である。どこの駅を降りてもおなじみの看板がある。確かに入りやすいのかもしれないが、知らない店に入るという冒険をしない(もしくはできない)というのは、コミュニケーション能力という意味ではやや問題ではないかと思うのだが、どうだろうか。はじめての街でガイドブックにも載っていないお店に入る、面白くない。それは音楽でも他のことでも同じだと思う。
ポール=モチアンは1958年のビル=エヴァンスの黄金トリオでドラムを務めた。あのメンバーでいま生き残っているのは彼だけである。今年で74歳になるモチアンは、エヴァンスとの活動以降もキース=ジャレットをはじめとする様々なジャズクリエイター達と新しい音楽を創り続けている。
今回の作品は、1980年代からの付き合いになるギタリスト、ビル=フリーゼルとサックス奏者ジョー=ロヴァーノとのトリオによるポールの最新作である。いささか変わった編成だが、「叩く」「弾く」「吹く」という人間が発明した楽器の基本的な演奏方法を代表した構成になっている。彼等が出会ってからもう25年が経過した。
内容は25年ものにふさわしい、とてもジェントルで奥深い「優しい音楽」である。限りなく引き延ばされた時間に、濃密な緊張感が同居しているような、不思議な時空間が再現される。独りでコーヒーやウィスキーを飲みながらじっくり聴くのもいいし、ピークを越えてまったり感の漂い始めたホーム=パーティのBGMにもいいだろう。照明は暗めでどうぞ。時折、この音楽が存分に楽しめるような時間がある、そんな人生は素敵だ。
来週は東京でもようやく桜が開き始めるそうだ。
Drummer World:Paul Motian
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