2/05/2005

ソニー=クリス「サタデイ モーニング」

  僕には休みの日に昼過ぎまで寝るということがほとんどない。「特にすることがない休みの日は夕方まで暴睡(ばくすいと読む)」とか言っている友達もいるが、僕にはそれができないみたいだ。それは独身の頃から変わらない。もしかしたら学生の頃もそうだったかもしれない。朝の3時までレコードを聴いて酒を飲んでいたとしても、9時には起きてしまう(まあそれでも6時間も寝ているのだが)。もちろん眠ることは嫌いではないけど、本来眠る場所以外で寝ている人をみると、あまりいい気がしない。若いタレントの子がプロフィールに「特技:どこでも寝れる」と書いているのを何度か見かけたことがある。いい特技だとは思うけど、ちゃんと寝床でお休みしましょうね。

 今朝もやはり普通に起きてしまった。妻が仕事で出かけるというので、朝のうちにろぐを書いてしまうことにした。このところ寒い毎日だが、今日は少し暖かいきれいな晴天で気持ちがいい土曜日の朝である。

 倉本聰のドラマ「優しい時間」をいまのところ毎回観ている。最近はテレビ番組を観るときはDVDレコーダに録画して、放映時と異なる時間に観るというスタイルが定着している。時間を有効に使えて便利である。このドラマのお目当ては長澤まさみだったのだけど、いまはそれも含めて全体が気に入っている。

 金曜日だった昨夜は、家に帰って夜遅くにそれを観て、その後は焼酎とかウィスキーをお湯で割って飲みながら、優しい時間を過ごした。妻が同じ部屋で眠ってしまったので、音楽も優しい内容にしなければならなかった。もちろん気分的にもあまりハードなものは聴きたくなかった。CDはたくさん持っているけど、そういうふうに聴きたいものが限定されたような時は、なかなかこれといったものが決まらない。日頃耳を開きすぎているからだろうか。ひさしぶりにソニー=クリスの作品を聴くことにした。これはそのときの気分によく滲み込んだ。

 この作品には思い出がある。僕がジャズを聴き始めて3年ほどたった大学生の頃、実家の近所に住む幼なじみの家に遊びに行ってしゃべっていると、その界隈に相当なジャズのコレクターがいるという話を、彼のお父さんから聞いた。その人は彼の通っていた高校の国語(だったと思う)の先生で、もう教職を引退される直前ぐらいだった(もしかしたら引退していたかもしれない)。遊びにいらっしゃいとお誘いを受けたので、僕らは興味本位でさっそく行ってみた。

 部屋に通されて驚いた。リビングの壁一面にアナログレコードの棚が作られてあり、ものすごく大きなオーディオセットが置いてあった。これはマニアだと思った。レコードは数千枚はあった。スピーカは人の背ほどもあるやつで、アンプもプレーヤも超一流品だった。その日、僕らはどういう話をしたのかあまり覚えていない。僕の友達はあまりジャズには詳しくなかったし、時間がお昼だったので、コーヒーをいただきながらいろいろな話をさらさらとしたように思う。

 それから数か月経った次の休みのときに実家に帰った際、今度は僕独りでその先生のうちにおじゃました。夜だったのでお酒を出してくれた(なぜかウィスキーをオレンジジュースで割って出してくれた)。今度はジャズの話にのめり込んだ。僕がいろいろと知っていると感じたのか、先生も嬉しそうで「若いのに珍しいね」といいながら、いろいろなレコードを嬉しそうにかけてくれた。

 僕がテナーばかり聴いていてアルトのよさがいまいちわからない、などとエラそうなことを言ったものだから(いま考えればアホな青さである)、先生が「ソニー=クリスて知ってるか」と言ったので、聴いたこともないのに持っている知識で「ゴー マン(クリスのアルバムのタイトル)とか」というと、「あんなもんはアカン、クリスはこれや」といってこの作品をかけてくれた。かけてくれたのはLPのB面で、アルバムのタイトル曲だったクリスのオリジナルである。

 それが僕がソニー=クリスを聴いた最初のことである。いまでもよく覚えている、本当に衝撃が走った。同時に立派なオーディオの素晴らしさというものをとても嫌みなく思い知らされた瞬間でもあった。そのときの僕には、彼が本当に目の前でアルトサックスを吹いているように「見えた」のだった。僕の「アルト食わず嫌い」はたちどころに矯正されてしまったのは言うまでもない。

 この正月にふとそのことを思い出し、親父に聞いてみると、先生はもう既に亡くなられていたことを初めて知った。あの夜、先生は夜遅くまでいろいろな話をしてくれた。帰りがけにはヨーロッパのフリー系のLPレコードを1枚お土産にいただいてしまったのを覚えている。その後、先生のことは実家に帰ることよりも、この作品を聴くたびにあの部屋で見えたソニー=クリスの姿とともに思い出す。この作品はもちろんCD化されてすぐに購入した。

 残念なのはこの作品が長いこと廃盤になっていること。それでも都内の中古CD屋さんでたまに見かける。最近はアメリカを中心に音楽のダウンロード販売が盛んなようで、ネットで検索してみたらそういうところでは取扱があるようだ。まあこれも時代の流れだ。聴けなくなるよりは全然いい。

 僕は正直なところCDを人に貸すのはあまり好きではない。それでも僕が音楽、特にジャズを聴いていることを知った知人から「なんかさあ、俺あんまりよくわかんないんだけど、これぞジャズって感じのやつがあったらいっぺん貸してくれよ〜」という調子で頼まれることが度々ある。そのときは大抵このCDを貸してあげることにしている。それもわざわざ「このサタデイモーニングっていう曲を先ず聴いてごらん」ということにしている。これまでのところ期待を裏切られたことは一度もない。あのときの先生もきっと同じ気持ちだっただろう。

Sonny Criss Discography Page
MP3.comにあるソニークリスのコーナー 今回の作品を含めダウンロードで購入できます

0 件のコメント: