2/27/2005

ギヤ=カンチェリ/ギドン=クレーメル「イン リステッソ テンポ」

  土曜日に渋谷のタワーレコードに足を運んだ。ディスクユニオンやレコファンなど、中古系のショップも含めて一通り回ってみて、何かいいものがあればという程度の軽い気持ちだった。でも、行ってみるとタワーだけで欲しいものが10枚くらい出てきてしまって、なかなか欲求を抑えるのが大変であった。結局、1時間半くらい5階,6階を行ったり来たりしながら、今回の作品1枚だけを買って店を出てきた。

 渋谷という街は、今頃の時期が最も活気が低下するようだ。理由はよくわからないけど、僕なりにまとめてみたのは、寒いので外に出かけるのが億劫になるのと、学生も社会人も卒業やら期末を控えて忙しくなる、ということだろうか。といっても、人ごみと喧噪は相変わらずで、はじめてこの街を訪れる人を驚かせるには十分だと思うのだけど、それでもやっぱり春先や真夏、歳末などの時期のことを思えば落ち着いている。

 僕が先週まで取組んでいた仕事のなかで、国内のいろいろな産業について、来年度以降の展望をまとめるという作業があった。僕が見たある資料は、鉄道などの運輸産業のこれからについて「少子化が進むことによる利用者の減少に伴う収益の減少」と書いてあった。確かに、僕が東京にやってきた頃に比べても、朝のラッシュは少しずつマシになってきているように思うし、もうこれ以上ラッシュがひどくなるということはないように思う。もちろん、鉄道各社の輸送力向上などの努力によって、それが実現している側面も大きい。だけど、やっとそれが報われてきたと思ったら、今度は人口減少というのも厳しい現実である。

 鉄道のサービスについて最近感じるのは「音」である。とにかく駅がうるさい。一番気になるのは、電車の到着や出発を知らせる合図に使われる音楽。あれはなんとかならないのか。音楽を聴いている僕にはとても迷惑だし、さしたる役割や必然性を感じないのだがどうだろうか。音階の変化しない単純な信号ではダメなのだろうか。あるいは「ドアが閉まります」とアナウンスが入るのだから(それもどうかと思うが)、それでいいのではないだろうか。まあ鉄道に限らず、街中全体にそうしたおせっかいが溢れているのが、この国の特徴なのだが。

 ギヤ=カンチェリはグルジア出身の作曲家。現代音楽の作曲家としては、なかなか成功している人だと思う。音楽はかなり重めだけど、少ない音数と静寂を中心にときに激しい音をうまく使った作品は、僕のお気に入りである。同じく旧ソ連邦出身のヴァイオリニストであるギドン=クレーメルを中心にしたソナタとオーケストラ+声楽テープの作品、そしてアルバムタイトルになっているピアノ4重奏曲の3曲が収録されている。どの曲もとても繊細で聴き応えあるものばかりだった。ちなみにタイトルの意味は「一貫したテンポで」ということらしい。

 グルジアという国がどういう国で、その首都がどういう街なのか僕は知らない。でも渋谷の様な街でないことはだけは確実だ。僕らはその意味でとても特殊な状況にあるのだとも言える。グルジアの首都はトリビシというところで、日本で一番馴染みのあるグルジアのものは「カスピ海ヨーグルト」のようだ。それも相当歪んで伝わって来ているのだろう。

 過剰なサービスでゆとりのない国の首都で、僕はある休日にグルジアの作曲家カンチェリの作品を収録したアルバムを買った。あながち偶然や刹那的な気持ちになった結果というだけではなかったのだろう。そう考えてみるとなにか面白くもあり皮肉っぽいものでもある。「現代人が求めている音楽がここにある」などと短絡的なことでは、決して片付けられない。人間ひとりひとりにとって「一貫したテンポ」はとても大切なもの、そんなことから語りかけてくる様な気がする作品である。

日本グルジア文化協会 グルジア共和国の情報がイいっぱい。でもカンチェリの情報はありません。
Giya Kancheli カンチェリのバイオグラフィ

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