凄いDVD作品が出たものだ。平日の夜中にもかかわらず、アマゾンから届けられたその日にたまらず観てしまった。観終わってもただひたすら唸るのみ。音楽関連の映像作品では久々の感動である。音楽作品としてよりもドキュメンタリー映画として観るべき作品だろう。
作品は、ジャズトランペット奏者でジャズの帝王と言われたマイルス=デイヴィスが、1960年代の最後に自己の音楽に起こし世に衝撃を与えた大胆な変革(ジャズの世界では「電化(エレクトリック)」と呼ばれている)とその背景をドキュメンタリータッチで描くもので、電化マイルスのグループが1970年にイギリスのワイト島で開催されたミュージックフェスティバルに出演した際の模様が完全収録されている。
DVDは本編80分とボーナストラック40分という構成になっていて、本編の前半40分で様々な証言をもとに、マイルスが遂げたエレクトリックジャズへの変貌の軌跡をたどり、そして35分のワイト島ミュージックフェスティバルのライブ映像、そして3人のミュージシャンがそれぞれにマイルスへのトリビュートを短い演奏で捧げるエピローグで締めくくられる。
なんと言っても凄いのが本編前半の、この演奏に関わった全員を中心に大物ミュージシャンや業界関係者等が、当時を振返ってマイルスとその変革についていろいろな考えや証言を語る部分と、さらにボーナストラックとして収録された、本編から漏れた様々な発言をテーマ別に再構成して収録したインタビュー集である。これがこの作品の中核である。個人的には本編とボーナストラックを合わせた120分の映像作品として考えていいのではないかと思っている。証言はいずれも非常にズシッと来るものばかりだ。引用したいものをあげればきりがないので、ここにはその内容は書かない。是非とも実際に目と耳で確かめていただきたい。
面白いのは、証言者として登場する中に評論家のスタンリー=クローチ氏がいることだ。彼の存在が作品の面白さを一段と深めている。彼は黒人文化としてのジャズを重視する人で、帝王マイルスの変貌に困惑する批評家のなかで唯一はっきりとマイルス批判を展開した人物である。興味のある方は、先のろぐで紹介したウィントン=マルサリスの「マジェスティ オブ ザ ブルース」に収録された、彼のジャズへの想いを綴った長い詩を読んでみるといいだろう。クローチ氏のエレクトリック以降のマイルスに対する現在の想いに関しては、興味あるところだがここでは明言を避けているようだ。
完全収録されたワイト島でのライブパフォーマンス「コール イット エニシング」の演奏内容に関しては、はっきり言って、先に何種類かのCDで発売されている同時期のライブ演奏に比較して、やや劣るものだと思う。この作品の魅力は、パフォーマンスの映像がほぼ完全に収録されているという点にある。もう35年近く前のことだから当たり前なのだが、若々しいチック=コリア、キース=ジャレット、ジャック=ディジョネット、デイブ=ホランド等の姿が存分に楽しめる。会場の雰囲気がプレッシャーなのか終始困惑気味のチック、対照的に与えられた電気オルガンへの不満も出さずに首をまわし続けるキース、当時も変わらず貫禄でドラムを打ち鳴らすジャック、ベース少年そのものの青いデイブ、そしてマイルス。みんな夢の様に素晴らしい。
マイルスのことを知らなくとも、ジャズのことを知らなくとも、音楽のことを知らなくとも、この作品にそんなことは関係ない。いろいろな場所で新しいものを目指そうとするすべての人、とりわけ若い世代の人たちに、是非ともこの作品をご覧になることをお勧めしたい。音楽に限らず、あらゆるシーンにおいて新しい何かを生み出すとはどういうことなのか、その具体的一面がバシっと伝わってくる、まったく素晴らしいドキュメンタリー作品である。
Miles Davis Web Site 公式サイト
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