1/16/2011

デヴィッド・S・ウェアの咆哮

年末から寒い毎日だが、この週末は一段と冷えた。

日曜日の今朝も5時半に起きてウォーキングをしたが、戸外に停めてある自動車のボディーはことごとく霜が降りて、まるでうっすらと雪が積もったかの様に真っ白だった。

横浜スタジアムの隣に建つビルの屋上に表示されている温度計は零度を示していた。大さん橋から港の波間と朝日を眺めようと行ったものの、ウッドデッキが一面霜に覆われていて、残念ながら桟橋に立入ることができなくなっていた。

この寒さで、朝、走ったり歩いたりしている人はめっきり少なくなった。しかしペットを散歩させる人の姿は相変わらず見かける。こんな寒い朝にわざわざ早起きして何かをする際には、通常よりも強いモチベーションが必要になる。独りで歩いたり走ったりすることについては、なおさらそうだと思う。いっしょに出かける家族や仲間の存在(ペットも含め)というのも、意外に大きなモチベーションになるところもあるのだなと思った。

僕の場合は、最低限の体力維持ということの他に、日常ではあまり着ることのないウェアを身につけて外に出るという欲求、あとは人気の少ない世界を肌で感じたい、その程度の理由で氷点下の早朝にでも起きて出かけるのが楽しいと思っている。だから、普通の格好でたらたら歩くのではダメで、昼間や夕方でもダメなのだ。

さて、寒さとは関係ないと思うのだが、このところ耳にする音楽はフリーインプロヴィゼイション関係が多い。通勤の行き帰りや、妻と子どもが就寝した後のひと時など、音楽をある程度じっくり聴ける機会のほとんどはそういう音楽に接している。David S. WareやWilliam Parker、あるいはAnthony Braxton、Ken Vandermarkといったアーチストを中心に、手持ちのものだけでなくあらたにCDやダウンロードで作品を買い集めている。

少し言葉は適当でないかもしれないのだが、やっぱり自分にとってはこの手の音楽を聴くことで心が落ち着くのだ。ストレスの解消と言ってもいいのかもしれないし、何か満たされない欲求、映画が観たいとか本が読みたいというのと同じ意味で、を満たしてくれるのだ。ここからはなかなか離れられそうにないようだ。そしてそれは単に聴くだけではなく、たぶん演奏するということについても。

今回は、David S. Wareのことを少し。"Live in the World"について書いたのはもう5年以上前のことだが、昨年久しぶりにあれを聴いたあたりから、いまのフリー系傾聴の状況が始まっていると思う。

あれ以後、彼の作品は買っていなかったのに今回また聴き込んでみたのをきっかけに、彼の経歴や他の作品についても強い興味を覚える様になった。これは危険信号であるので自制的な対応を意識しているつもりだが、いろいろなウェブサイトに書かれていることを参考にしながら、CDとダウンロードで1つずつアルバムを買ってしまった。

素晴らしかったのは、1997年のオランダでのソロパフォーマンスを収録した"Live in the Netherlands"。4つのトラックに分けられた40分間程度のテナー1本によるステージが収録されている。実際には、各トラックの中がさらにいくつかのモチーフに基づくパートに分かれていて、パフォーマンスとしての一貫性とは別に、個々の楽曲としての独立性を保っていて、そういう明確な構成がこの作品を親しみやすいものにしていると思う。このあたりにウェアの才能が存分に発揮されている。

興味深いのは、マイケル=ブレッカーがアルバムのライナーノートを書いていること。マイケルとウェアは高校生の頃にバークリー音大の夏期講習をともに受講した仲なのだそうだ(うらやましい高校生活である)。さほど長くない文章からは、コルトレーンフリークとしてサックスに取り組んで来たマイケルに、ウェアの演奏が自分以上にコルトレーンに近い存在と感じられ、僕にはそれが尊敬というより嫉妬にも似た思いだったように読み取れた。

それを読みながら演奏を聴くとどうしても耳がそれに影響されるものだが、マイケルほどの人がわざわざライナーノートとしてそこまでのことを書いているわけだから、実際に演奏を聴いて納得できないわけがない。聴けば聴くほど40分間という時間があっという間に過ぎてしまう。

フリーフォームのサックスソロを何十分も聴くというのは、一体どういうふうに音楽の世界に入っていけるのか戸惑いや不安を覚えるものかもしれない。それは生の演奏を体験することでかなり敷居が低くなるものだと思うのだが、こうして記録されたものがあれば、何度か繰り返して聴いてみることで、生演奏に限りなく近い体験を得ることができるのだと思う。

たった独りで、思いのままに、野心的に演奏する。それが素晴らしい結果となって表れた貴重な記録である。しばらくはウェアの咆哮にのめり込むことになりそうだ。

(この作品はアマゾンなどでは取扱い中止になっているが、僕はアランの店で買うことができた)

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