10/18/2009

トスカを試す

予想通りこの1週間はほとんど菊地の音楽を聴いていた。週の後半にはネットで注文していたテザードムーンの作品Experiencing TOSCA"が届いた。これがまた素晴らしい作品だった。

タイトルにあるトスカはプッチーニの有名なオペラの題名。その音楽を題材にした8つの作品が収められている。インナーの記述によればすべてコンポジションと書かれており、付された収録時の写真からも事前に楽譜が用意されていたことが伺える。

僕の勝手な誤解かもしれないが、ジャズマニアを称する人はこの手の企画が苦手である。オペラを題材にしたと聞いただけで、何かジャズの純粋性(よくわからないが)が損なわれたと感じるようだ。

僕はプッチーニのトスカを知らない。従って各楽曲のテーマやモチーフからそのオペラを想起することはまったくなかった。だからこれらの作品はプッチーニに敬意を表しつつ、テザードムーンの3人の創造性が存分に発揮されたものとして、素直に受けとめることができた。


菊地もゲイリーもポールも、ここに集う3人の音はいずれもいわば夕方の音だ。明るさはあるが影が長く空気は気怠くやや重い。しかし確実に陽の光はある。特に菊地のピアノの重さや暗さといったら、それはかなりのものだ。音の重さでいえばマル=ウォルドロンと並ぶ次元ではないか。その重い宝刀で切り出される旋律の輝きの素晴らしさ、それが彼の魅力だと思う。

菊地の音楽で一番有名なのはたぶん「ススト」だと思うが、あれはマイルスとギル(=エヴァンス)へのトリビュートで彼らの音楽性をかなり意識して出しているように感じる。代表作には違いないが、僕にとっては番外編的な作品だと思っている。

いくつかのスタンダードナンバーが盛り込まれた前回の作品に比べ、プッチーニを題材にしつつも全編オリジナルで臨んだこの作品は、このユニットの持つさらに深い魅力が表されていると感じる。この素晴らしさはなかなか言葉にできるものではない。

テザードムーンの最近の作品は、すべてドイツのWinter and Winterというレーベルから発売されている。前回の作品のベースとなった最初のセッションを収めたもの以外には、シャンソン歌手エディット=ピアフに因んだものや、作曲家クルト=ワイルの作品集などがあるようだ。

今回の作品の衝撃度からして、これから僕がそれら3枚に手を伸ばすことは先ず間違いないだろう。この3人がこんな素晴らしい活動をしていたことを知ることができて本当によかった。これはヤラレます!

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