11/23/2008

壱源のバラッド

今年の秋は連休が多い。月初の文化の日に続いて、勤労感謝の日も3連休である。9月と10月にハッピーマンデーが導入されているのだから、まあ当然と言えばそうなのだが。

先月、会社で受診した健康診断の結果でちょっと気になる結果があった。僕はどうやら生まれながらにして脈が乱れがちな体質のようだ。いわゆる不整脈である。会社の成人病検診で生まれて初めて心電図を採った35歳のときにそのことを知った。以来、心電図を受診するたびにその結果が出て「要精密検査」となる。

6年半前には専門病院で精密検査を受け、その際にどうやらあまり心配する必要のないものだということが判明し、以来ほとんど気にしたことはなかった。それがなぜか今回は結果が気になり、気にすればするほど胸が重い感じがしたので、前と同じ病院で再度診てもらうことにしたのだ。

忙しい中、わざわざ会社を休んで行ったのだが前回と同じ先生が応対をしてくれた。彼が僕に言ったのは一言「あんまり気にし過ぎるのはよくないよ」ということだった。

ただ以前にも増して僕は身体のことを気にするようになった。お酒を少し(あくまでも少しかもしれないが)減らし、脂分の少ない食事を心がけるようにした。会社でお昼に食べていた中華弁当や揚げ物の弁当をやめ、家でもそういう食事を意識するようになった。これには妻も同意してくれて、近頃は味付けも含めかなりヘルシーなよるご飯が続いている。薄味はいいものだ。

脂といえばラーメンである。こればかりはやはり食べたくなる。そこをなるべく我慢する。カップラーメンはあまり食べることもなくなりそうだ。お店のラーメンはなるべく週末に続かないようにして行くつもりだ。なじみのお店には申し訳ないのだが。

連休初日、渋谷にCDを見に出かけた。といっても半分のお目当てはラーメンである。まあたまにはいいだろうということで、心躍る思いで北海道ラーメンの「壱源」を目指した。しかし、お店はなくなっていた。張り紙さえされていないお店の跡を前に僕はしばらくじっとそこに立っていた。家に帰ってネットの情報で先月18日に閉店したことをようやく知った。運命のいたずらとはこういうことか。とても残念である。

お店に何があったのかはわからない。薄暗い簡素な店内の雰囲気とは裏腹に、とても暖かいお店のお母さん、奥のカウンターで作業するご主人と若い店員さんの顔が浮かぶ。飲食店に限らず、作った人の顔が浮かぶ仕事というのは、とてもかけがえのない大切なことなのだなと思った。仕方なく近くにある「博多金龍」で替え玉をして食事を済ませた。スープはなるべく残した。

最近はCDを買うにしてもネット経由が多いのだが、やはりショップはたまには覗いてみたくなる。ネットの侵攻は着実に進んでいる。最近驚いたのは、ディスクユニオンが中古品を含めた店頭在庫CDのネット検索ができるサービスを始めたこと、そしてドイツのECMレーベルの諸作品がiTunes Storeで配信されるようになったことだ。

いずれも僕個人としては「とうとうここまできたか」とある意味で感慨深いものがある。前者はCDの流動性を高めることの、そして後者は音響というものに対する業界の認識の鈍化を象徴するものだと思う。自分は音質にはわりとこだわりの少ない方だと思う。「音が良い」というのはあくまでもライフスタイルの問題で決まるのだから。

渋谷のディスクユニオンに立ち寄る。奇しくもECM中古盤の大放出というのをやっていた。そのなかでながらく中古で探していた作品を見つけることができた。ポール=ブレイの「バラッズ」。ジャケットを一目見ればECMのかなり初期の作品であることがわかる。カタログナンバーは1010番だから、単純には10番目の作品ということになる。

この作品には2つのピアノトリオによる演奏が収録されている。ブレイとドラムのバリー=アルトシュルは同じで、ベースがゲイリー=ピーコックとマーク=レヴィンソンに分かれる。録音は1967年とあるから、ECMが創設される少し前のものだ。よって作品には同レーベル作品にお馴染みのマンフレッド=アイヒャーのクレジットはなく、代わりにすべての楽曲を提供したのがアネット=ピーコックであるということと、意味深なメンバーのスナップ写真が掲載されている。

このCDはミュンヘンのECMからは正式にはCD化されておらず、ユニヴァーサルミュージックの日本法人の企画ものとして日本で復刻されているものだ。だから今の時点ではかなり貴重なのである。先に書いたクレジットと写真の持つ意味については、復刻盤のライナーノートにちょっとしたエピソードが載っている。

ブレイの音楽に対しては好き嫌いははっきり分かれるところだと思う。家に帰ってさっそく聴いてみたのだが、もう前半の"Ending"だけで完全にノックアウトされてしまった。本作品が"Open to Love"や"Fragments"と並んで彼の重要作品であることに個人的には異論はない。ブレイが1960年代後半の時点で、これほどまでに美しく緊張感のあるピアノトリオ演奏をしていたのは驚きである。キースが現在のECMの表看板だとすれば、ブレイは創業当初からある隠れメニューといったところだろうか。

しばらく探していたこの作品に出会ったその日に、なじみのラーメン屋がなくなってしまったことを知ったことは、おそらく今後この作品を聴く折にふれ思い出させることになるのだろう。まあそれも悪くないかもしれない。

ポール=ブレイ
「バラッズ」

0 件のコメント: