11/16/2008

パス イット オン

このところ週末はあまりいい天気にならない。この土曜日も午前中はまだよかったのだが、午後になると雨が降ったりした。日曜日はずっとどんよりした曇り空で、時折雨が落ちた。近場を少しうろうろしたりしたが、家の中で片付けや整理をして過ごすことが多かった。

僕は少し前から気になっていた、ハードディスクに入れてある音楽の整理をした。こういう作業でも「音楽の整理」と呼ぶのだから、以前とはずいぶん様変わりである。ホコリで手が汚れたり、重い箱をさげて腰が痛くなったりすることはないが、代わりに目と肩が疲れてしまう。

気になっていたのは、マイルスと(ビル=)エヴァンスそれぞれのボックスセットのデータを、正規のアルバムに組み直すという作業。そう言われてわからない人には何のことやらと思われるだろうが、今の時代ならではの整理上の問題の一つである。それといわゆる名盤といわれるジャズのアルバムを、まとめてディスクに収録する作業である。

ボックスものはある期間の作品について録音順に収録されているもので、実際に発売されたアルバムとは曲順が異なりアルバムとして聴くには非常に不便である。ジョーヘンやクリフォードのボックスセットをアルバム単位にまとめ直してみて、やはり本来こうあるべきだよなと納得していた。マイルスとエヴァンスのセットは収録作品が多いので、ちょっと面倒な作業になる。

以前にも書いたかもしれないが、やはり未発表テイクと呼ばれるものには、そうなった理由があるのだから、そこにプレミアム性を見いだすことはできるとは思うが、それは実際のところはあまり大したものではない。たくさんのCDを持っていろいろと聴くようになると、ますますそういうことはどうでもいいように思えてくる。

おかげで、マイルスのプレスティッジ時代、エヴァンスのリヴァーサイド時代の名アルバムについて、今一度その存在を確認することができた。これからはまたアルバム単位でこれらの作品をじっくり聴くことになるだろう。さらにそれらと同時代のジャズの名盤10名ほどを新たにiTunesのライブラリに加えた。キャノンボールの「サムシン エルス」、ウォルター=ビショップJr.の「スピーク ロー」、ポール=デズモンドの「テイク テン」等々。またこのろぐにもそれらの名前が出てくることになるかもしれない。

さて、今回は最近購入したCDの中からデイブ=ホランドの最新作を紹介しておきたい。

前作「クリティカル マス」も良かったのだが、今回の作品はECM時代から続いてきたバンド編成に大きな変化があった。それはピアノが加わっていることであり、その席を務めているのはなんとマルグリュー=ミラーである。

デイヴの音楽はコンポジションとインプロヴィゼーション両方の観点から、非常に優れた内容のものであるが、テンションの高い音楽である反面で難しさや近寄りがたさのような要素が感じられないわけでもなかった。今回、ピアノが加わったことで、その辺りについて少し柔らかさや親しみやすさを増しているように僕自身は感じている。

デイヴの心境にどの様な変化があったのかはわからないが、僕はこの編成で演奏される音楽にとても強い好感を持った。収録曲は従来から演奏されてきたオリジナル曲も多く、その意味ではピアノ入りのセクステット(6人編成)での新しい表現を楽しんでいるようにも思える。

アルバム後半に収録されたサム=リヴァースに捧げた"Rivers Run"、そしてエド=ブラックウェルに捧げたアルバムタイトル曲"Pass It On"は、このアルバムの大きな目玉である。特に前者はドラマチックでスリリングな展開が見事な作品である。ちなみにサムは1923年生まれで現在85歳(!)ということになるが、彼のウェブサイトを見る限りは未だ現役で、自身のオーケストラとトリオを率いて活動しているようだ。これは知らなかった。あれだけの吹きまくりを続けて、現在もなおご存命でなおかつ現役で演奏されているというのは、信じられないことである。

これを機会に過去のデイヴの作品をいくつかiTunesに入れ聴き直してみたりもしている。やっぱり僕自身が一番お気に入りのベーシストとして、すごい活動を続けているなあと、しみじみ感じ入ってしまった。今回の作品はこれまでの彼の音楽にちょっと距離を感じていた人にも、彼の世界を楽しんでもらえると思う。是非とも聴いてみてください。

 デイヴ=ホランド セクステット
「パス イット オン」

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