12/16/2007

温泉と紅葉の山道

先々週の金曜日に、会社を休んで湯河原の温泉旅館に1泊2日の旅行に出かけた。今年はいろいろなことがあった。妻と2人泊まりがけでこうした温泉旅行をするのも久しぶりのことだ。

行き先にはいくつかの候補があった。先日出かけた南房総も捨てがたかったが、今回はなじみのところでのんびりしようということで、結婚以来何度かお世話になている湯河原の「近藤」という小旅館に行くことに決めた。おじゃまするのはたぶん今回で4回目になると思う。部屋が全部で数室で比較的手頃な値段で泊まることができる。浴場もこぎれいで24時間お湯に入れるのもうれしい。

旅館のチェックインが午後3時だというので、湯河原の次の駅である熱海にお昼に着いて、そこから歩いて湯河原を目指そうという計画を立てた。川崎の家を出たのは午前10時だった。川崎から横浜までのしばらくの間は東海道線もまだ少し混んでいたが、大船を過ぎたあたりですっかりお客さんも少なくなった。平日の昼間の電車は気持ちいいものだ。

僕はiPodで久しぶりにアルバート=アイラーのラストライヴを聴いた。快調に吹きまくるアイラーの演奏と、電車の座席から眺める神奈川の車窓の景色が、平日に仕事を休んでくつろいでいるという気持ちよくマッチした。湘南の海はおだやかでとてもきれいだった。

熱海は新幹線の駅ということもあって、湯河原よりは駅前が大きい。夜は旅館でごちそうなので、軽くお昼を食べようと少し駅前をうろうろした結果、商店街のはずれにあったラーメン屋さんがよさそうだったので、そこに入った。みそラーメンが売りのお店で、僕はそこにのりとゆで卵を入れた「熱海ラーメン」を注文した。初老の白髪店主が作るラーメンはなかなかおいしかった。


腹ごしらえもすんで、さてここから少し歩いて湯河原を目指そうということになったのだが、ここで少し番狂わせがあった。というのも熱海の東側から湯河原に至る道のりが、想像以上に入り組んでいて観光地図が役に立たない(考えてみれば湯河原と熱海はまあライバルの様なものでもある)ことがわかったのと、坂がかなり厳しく、僕が踏破するのに少し体調の不安を感じたのである。

結局、少し道をいったところで今回は断念し、そのまま電車で一駅戻って湯河原に入ることにした。歩く気満々でいた妻は少々不満気であったが、まあ体調が悪くなってしまってはせっかくの温泉も楽しむどころではない。歩くのは翌日でもできるので、とりあえずその日はおとなしく午後3時ちょうどに宿に入らせてもらうことにした。結果的にはその方がよかったと思う。湯河原駅から旅館までは歩いて20分ほどなのだが、途中にある神社の紅葉がきれいに色づいていた。

旅館は少し古びた様に映ったものの、こじんまりとしたたたずまいはいつもと変わりないものだった。僕らがその日の最初のお客だったようで(当たり前か)、奥から出てきた主がいつもの様に丁重に迎えてくれた。温泉に一番近い部屋に通され、入れてもらったお茶を飲んで一服したのも束の間、僕らはすぐに温泉に向かった。お湯は少し熱かったが、足を伸ばしてゆっくりつかれるお湯は最高である。少し気配のあった体調の不安もあっという間に飛び去った。

食事までの間まだ2時間ほどあった。妻は読書をするというので、僕はiPodに入れてあったブランフォードのライヴ映像をじっくり楽しんだ。これを観るのも久しぶりだったが、この映像をこういう場所でこういう形で楽しむことになるとは、少し前までは想像もできないことだった。確かに画像は小さいのだが音楽映像は音楽がメインなので、意外にもこういうスタイルでもそれなりにしっかり楽しむことができる。浴衣姿で畳の上に足を伸ばして楽しむ「至上の愛」も格別だった。

今回はいつもの食事に刺身の皿盛りを追加で頼んであったので、お刺身づくしの豪勢な夕食となった。小さなお鍋までついてあって、最後にそれで雑炊を作って平らげた。完全な食べ過ぎである。夜9時前になって再び温泉へ。またしても誰もいないお風呂場でのんびりと腹ごなしをした。僕は温泉に行くとなぜか頭髪を洗わない。

その夜は近くのコンビニで買ってあった紙パック入りのワインを部屋で飲んだ。これが意外にも美味しかった。おつまみはなかったがさすがに夜ご飯を食べ過ぎたのでちょうどよかった。テレビではドリームズ・カム・トゥルーのドキュメンタリー番組をやっていて、しばらくそれに見入ってしまった。最近のろぐで日本の国民的人気音楽とは誰かという話を書いたことが思いだされた。もしかしたら一番近いのは彼等かもしれないなと思った。

翌日、朝風呂と朝食を堪能し旅館を後にした。旅館の部屋に置いてあった観光チラシで見た「もみじの郷ハイキングコース」というのを歩いてみることにした。ところがこれがまた実にいい加減な地図しか載せられておらず、さんざんあちこち道をいたり来たりした末に、よくわからないので下から上るのをあきらめて、バスで奥湯河原の入り口まで行って、コースを下ってくることにした。バス停に向かう途中でやはり同じチラシをもったおじさん3人組に道を聞かれた。僕らもわからないで困っているのだと、いままで行った道を説明したところ、この地図はなっていない観光協会に文句を言っておこうなどというわりには、楽しそうなおじさん達だった。


バスで10分ほど上って奥湯河原入口のバス停で降りてみると、ハイキングコースの入口はすぐにわかった。実際にはかなりな山道でそれはそれで歩き甲斐もあって楽しかったのだが、肝心の紅葉の方は大して本数があるわけでもなかった。山道は落ち葉がたくさん積もっていてなかなか趣があった。ところどころから見える遠くの山々がきれいに色づいていた。途中休憩もしながら2時間ほどの行程だっただろうか。

ハイキングコースを終えたところを歩いて下っていると、向こう側から3人の男性が登ってくる。よく見てみるとさっきのおじさん達だった。彼等はなんと彷徨ったあげくに自力でようやくこの登り口までたどり着いたようだった。「おや、あなた方は・・・」と驚いた様子で、僕らがバスで上ってコースを降りてきたのだと説明すると「いやあそれが正解だよ」とここまでの苦労をまくしたてて最後にまた観光協会がどうのこうのと言っていたが、それでも楽しそうだったのが印象的だった。

おじさん達と別れてほんの少し歩くと、それが僕らがさっきおじさん達に遭った場所に近いところだということがわかった。僕らがバスに乗ってハイキングコースを降りてくるのに2時間ほど経過しているわけだから、その間出来の悪い地図と格闘しながら付近をうろうろしたのに違いない。お気の毒である。

僕らは近くの「万葉公園」内にある、いろいろな足湯を集めた施設「独歩の湯」で少し足を休めた。まああまり風情のある場所ではないが、疲れた足を休めるにはいいお湯だった。そのまままたバスに乗って湯河原の駅まで降り、駅前にある小さなおそば屋さんでお昼を食べて電車に乗って家に帰った。地図に関する番狂わせが続いた旅だったが、それもまあ面白いものだった。温泉は楽しめたしご馳走にも満足した。またいつか来たいと思うが、今度湯河原を訪れるのは、しばらく先のことになるだろうなあと思ったのも正直なところである。

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