10/14/2007

タブラ・ビート・サイエンス「ライヴ イン サンフランシスコ」

 たぶん最初はベースの練習のつもりで、そういうことをし始めたのだと思う。弦を弾く右手の人差し指と中指で、机やら畳やら手が触れたものの表面をリズミカルに叩いていた。そのうちベースの演奏とは無関係に、より細かいリズムを求めてそこに中指が加わり、3連や6連あるいは5連といった細かいリズムを叩くようになった。そこに小指と親指が参加するようになるまでに、そう時間はかからなかったように思う。

いろいろな音楽を聴くようになってインドの音楽に触れたとき、シタールとともに打楽器であるタブラのことを知った。この楽器はとてつもなく多様な表現ができるのだが、その奏法は手で叩くというより、鍵盤楽器のように指先で弾く物に近い。その凄さを知ったのは、ラヴィ=シャンカールがモンタレーポップフェスティヴァルに出演したライヴ映像で、タブラ奏者のアラ=ラーカを視たときだった。

シャンカールの超絶技巧のシタールに勝るとも劣らない技で、メロディとリズムを同時に演奏するそのパフォーマンスに僕は度肝を抜かれた。指先の動きに目がついていけない。右手と左手の指で音を出すギター等と違って、指1本で音をたたき出し、しかもピアノのように重い鍵盤を叩くわけでもない。これは指の動きの細やかさをフルに引き出せる理想的な楽器である。

ザキール=フセインはアラ=ラーカの息子である。彼の死後その道を継いで現在はインドの人間国宝として、タブラ界の頂点に立つ重要人物である。彼は1970年以降、インド音楽だけでなく世界の様々な音楽との交流を進めている。ジャズの世界でおなじみなのはギタリストのジョン=マクラフリンとシャンカール等とのユニット「シャクティ」がある。

今回の作品は、ザキールがエレクトリックベーシストのビル=ラズウェル(この人のことをどう紹介したものか難しいので、ここでは名前だけにしておく)と組んだユニット"Tabla Beat Science"によるライヴ演奏である。このユニットはザキールをはじめとするインド系アーチストと、テクノ・エレクトロニカ系アーチストからなるハイレベルなコラボレーションである。週末に出かけた渋谷でタワーレコードに入り、試聴器にあったこの作品を耳にしてためらいもなく買ってしまった。

こういう異種交流企画は最近では何も珍しくない。しかし思いつくのは簡単でも、結果を出すのはまったく容易でないというのが、音楽に限らずどのような世界においてもこの手の企画の常であろう。もともと異なる文化を背負って長年営まれてきたものだから、それを簡単に混ぜ合わせて表面をつくろっても、結局は内容の薄っぺらなものになってしまうのは当たり前である。

このユニットについても試聴してみるまでは半信半疑だったのだが、その心配は無用であることはすぐにわかった。やはりそこはザキールやラズウェルといった人の凄いところだろう。僕は試聴器で彼等の代表作"Tala Matrix"を最初に聴いたのだが、DJ Diskのスクラッチとそれに絡むアジアンパーカッションの饗宴はまったくもって壮絶である。さっそくiPodにこれを入れると同時に、彼等の演奏を収めたDVD作品も注文した。

だいぶん気温が下がってきて、いろいろな意味でいい気候である。味覚と食欲が旺盛になる、いい音楽との出会いもある。それでも自分の内には、まだ何かを捜し求めている様なところがある。それが何なのかをわかっている自分がいる一方で、それが出てこないように抑える自分がいる様にも思える。それは何かを捜しているのではなくて、何かを避けようとしている自分であるようにも思える。秋は微妙だ。

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