9/23/2006

パット=メセニー&ブラッド=メルドウ「メセニー メルドウ」

 8月の下旬だったか、久しくご無沙汰になっていた米国アマゾンドットコムからメールが届いた。以前、僕が購入した商品に関連した新商品の発売を教えてくれる内容だった。このところ、円相場は決していい条件とは言えないのだが、お同じ商品でもアマゾンは米国と日本で随分値引率が違う。「予約販売は一律25%引き」につられて、僕はその商品とさらにその関連でレコメンドされた2枚の新作と併せて、3枚のジャズ関連のCDを注文した。先週末に届いたそれらの作品はどれもなかなか聴き応えのある素晴らしい内容だったので、今回から3連続でご紹介してみようと思う。

先ずは、ギタリスト、パット=メセニーとピアニスト、ブラッド=メルドウがデュオで組んだ作品。タイトルは2人の名前を組み合わせたそのまんまである。ジャケットは透明のプラスティックケースに刷り込んだ彼等の名前が、ネイビーと白のグラデーションの上に浮かび上がるようになっているという、なかなか凝ったものになっている。

メセニーについては、僕もかつては大ファンであり、来日公演に3回も足を運んだ程だった。しかし、最近の活動はどうもつまらなく、僕の中では「20世紀で終わったギタリスト」というレッテルが貼られていた。ECMからゲフィンレコードに続いた、一連のメセニーグループの作品は最高だったと思うし、その合間に出されたいくつもの共演プロジェクト(オーネット=コールマン、ジョン=スコフィールド、デイヴ=ホランド&ロイ=ヘインズ等々)も、まったく素晴らしい内容だった。ほとんどの作品はいまでも愛聴盤である。

僕の中で彼が「終わった」のは、世紀の変わり目に発表されたトリオ作品だった。ギタートリオのフォーマットでいままでの様々な作品を演奏するという、いわば「20世紀総括プロジェクト」のような企画だったのだが、これがはっきり言って超つまらなかった。スタジオ盤と2枚組のライヴが発売されたと思うが、購入後即中古屋に売り払った程だった。以降、彼の新作は何を聴いてもつまらないようにしか聴こえなくなった。

実はつい最近、メセニーグループの新作も買って聴いてみたのだが、音楽の濃密さと壮大さは従来の彼等のサウンドより一回りも二回りも進化していたが、僕にはやはりつまらなかった。思い込みというか自己暗示なのかとも思ったが、やはりいったん評価を下げてしまうとなかなか元には戻らない。我ながら恐ろしいことだと思う。さらに自分勝手な感想で恐縮なのだが、僕はやはりメセニー自身も疲れていたのだと思っている。もちろんその作品への気合いの入れ様は大したものだとは思うのだが。

メルドウは意外にも実は今回が初めてのCDである。アマゾンでキース(=ジャレット)の作品を買うと、必ずといっていい程、彼の作品がレコメンドに登場する。今回もそのシステムを使ってCDを買ったので、あまりエラそうなことは言えないが、ああいうシステムはアーチストにとっては有難迷惑な一面もあるに違いない。

僕はキースの作品をほとんど買っているから、メルドウの作品については、一枚も聴いていないにもかかわらず、薦められ飽きたような感情を持つに至ってしまっていた。何とも失礼な話だとは思うのだが、これは偽りのない事実なのだ。

さて、共にかつてはECMの看板アーチストだった2人が組んだ今回の作品は、ECMのライバルといっていいナンサッチレコードの企画によるものである。プロデューサとしてメセニーの名前がクレジットされており、全10曲中7曲が彼のオリジナルで残り3曲はメルドウの作品である。デュオフォーマットで演奏されるのが8曲、そして2曲でベースとドラムを加えた豪華クァルテットという趣向になっている。

内容は非常に素晴らしい。メセニーのギターは相変わらずだが、メルドウとのコラボレーションで引き出される面と、久しく聴いていなかった懐かしさのようなものも手伝ってか、とても素直に僕の耳に入り込んできた。デュオの作品はどれもとても表情が豊かだ。そしてクァルテットの作品も格別にカッコいい。"Ring of Life"の後半では、懐かしの(?)ギターシンセもしっかり登場する。この企画でツアーをやったら、見応え聴き応えはかなり期待できるだろう。僕も是非足を運んでみたいと思う。チケットは相当な値段になりそうだが。

というわけで、自分の中でしばらく評価が下がっていたメセニーと、リコメンドシステムの弊害で不遇だったメルドウ、2人のアーチストに対する僕の印象は、めでたくポジティヴに転換することになった。ちょうどいまの季節に相応しいような、気持ちのいい作品に巡り会うことができたのは幸せだ。そろそろ国内でも発売されてる様なので、いろいろな方に幅広くお聴きになることをお薦めしたい。

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