7/08/2006

トリオ・ビヨンド「サウダージ」

 比較的忙しい1週間だった。最近の僕にしては珍しく、夜の宴も3件あった。仕事は少々綱渡り的なところもあったが、なんとか無難にやり遂げた。自分たちの成果を記事にしてくれるという、新聞向けの参考資料をつくったり、自分の考えをプレゼンして、ディスカッションするという内容だった。新しい人との出会いなどもあり、新しい何かを期待できそうな側面もあった。自分の意見を持ったうえで、それをベースにいろいろな人と交わるというのは、とても大切なことである。

夜の宴の方は、それぞれに個性のある内容で、楽しい思いをさせてもらった。金曜日の夜に開催された男3人の飲み会では、清澄白河にあるどじょう鍋の老舗「伊せ喜」に行った。あの付近にいまも多く残る、江戸の文化を伝える老舗料理屋らしい雰囲気が新鮮に感じられ、広い相座敷で名物の「どぜう鍋」や柳川、鯉のあらいなどに舌鼓をうった。どじょうを食べるのは2回目だったが、あれはなかなか美味しいものだと思う。こういうものは食べられる機会に行っておいた方がいい。値段がやや高いのが気になるが、味や雰囲気は大満足だった。

今週は、久々にジャズの新作を聴きまくった。ジャック=ディジョネット、ジョン=スコフィールドに、オルガンのラリー=ゴールディングスを加えて結成されたユニット「トリオ・ビヨンド」が、2004年11月にロンドンに出演した際の模様を収録した2枚組ライヴアルバムである。

このユニットは、ジャックの呼びかけで結成されたもので、今は亡きジャズドラマー、トニー=ウィリアムスへのトリビュートとして企画された。従って、演奏されている内容もトニーに因んだ曲が多く含まれている。トニーについては、2年程前に一度このろぐでとりあげた。今回の企画も、特にトニーがマイルスの元を離れて、はじめて自己の音楽を追求したユニット「ライフタイム」をテーマにした内容になっている。

僕としては、企画の主旨だけで、これはもう聴かないわけにはいかないと思った。オルガントリオという編成になっているのも、非常に興味をそそられるところだ。音楽表現において特に個性とその発展に重きを置くジャックの様な人にとっては、やはりトリオというのは最も理想的な編成なのだろう。実際に音を聴いてそれが一番はじめに納得した点である。

マイルスグループに在籍し、その後自己のグループを結成したという意味で、2人のドラマーは共通の経歴を持っている。表面上の音楽性はかなり異なる(というかジャックの活動があまりにも多岐多様なのだが)ものの、それぞれのドラマーとしての強烈な個性を中核に、様々な演奏家とのコラボレーションを繰返しながら、着実に名作を積み重ねていった点も同じである。

ただ、やや残念なことに、トニーのライフタイムに対する評価については、正直まだ少し定着していない様に思えるのだ。ここ最近になって、ようやく当時の作品が復刻発売されるようになってきている。その意味で、いまこの時期にジャックがこうした主旨の企画作品を発表したことは、僕個人としても嬉しい気持ちで一杯である。

演奏内容の素晴らしさについては、もはやコメントの必要はないと思う。別にジャックがトニー風に叩くわけでもなく、いつものマジックが2時間弱のステージでたっぷり展開される。おそらく2部構成のステージをほぼそのままの形で収録したのだと思う。数回聴いたいまの時点では、2枚目に収録された最後の2曲、コルトレーンの"Big Nick"、そしてトニーの"Emergency"の聴き応えが特に気に入っている。

いろいろな意味で表現における「個性」というものの重要性と難しさについて、考えさせられた作品である。個性は確かに難しいものになりつつある様に思える。しかし、その基本は常に単純なものでもある。おそらくそれは音楽に限ったことではなく、いろいろな人間の営みに共通するものに違いない。
 

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