5/07/2006

カサンドラ=ウィルソン「サンダーバード」

 連休はあっという間に終わってしまった。前半は家でだらだらと過ごし、後半は妻の実家がある広島に行った。ちょっとしたことはいろいろとあったが、時間の流れは慌ただしかった様な印象がある。気がつけばもう休みも終わりかという感じである。後半にちょっと体調を崩しかけたが、まあなんとかそれ以上悪化するのは避けられたようだ。

このところ新しく音楽を購入するのを控えて来た。というのも、海外に発注したいくつかの物件がなかなか納品されず、未着品として滞留してしまったからだ。いずれも組み物で、10枚組と4枚組と、3枚組がそれぞれ1セットずつ。最初の10枚組のものは、3月初旬に予約注文したものなのだけど、先日になってようやく発送の連絡がメールで届いた。4枚組のものは5月の初日に届いたばかり。そんなわけで、これからしばらくの間は納品ラッシュに湧くことになりそうだ。いずれもそれなりの際物であって、楽しみである。

そんな中にあって、唯一日本で購入してしまったのが今回の作品である。カサンドラは女性ジャズヴォーカリスト。スティーヴ=コールマンらを中心とするM-BASEの一派というイメージが強い。前にも書いた様に、僕はスティーヴの音楽にはある時突然目覚めて、ほとんどの作品を持っているのだが、カサンドラは1枚も持っていない。他人からCDを借りて聴いてみて、カッコいいと思ったこともあるのだが、どうしても自分で買って聴くまでには至らなかった。何か不思議な近寄り難さがあった。ヴォーカルものはそのへんの灰汁の強さがストレートに出てしまうようだ。

今回は、先に書いた様な事情もあって、ちょっとした新譜渇望状態におかれていた折りに、たまたま覗いてみたアマゾンのリコメンデーションに現れた本作に、何気にというかある意味素直に興味を惹かれた。試聴してみると、僕が知っているカサンドラの歌声はそのままだったが、どこか難しさよりも懐かしさを漂わせる内容に、知らない間に購入ボタンを押してしまった。さすがはアマゾンで押した翌々日には納品である。

連休中に興味を惹いた変わったものをいくつか書いてみると、広電(広島市内を走る市電)の車内で見かけた女性が履いていたローライズのジーンズが、見るものとしてより履くものとして妙に印象に残ってしまい、あれはなかなかカッコいいものなんだなと(遅まきながら)思ったこと。早速、ネットでいろいろ捜して1本買ってみた。こういう時、お店に出かけなくなった自分がいまや不思議でも何ともないのだが、時代も変わったものだと思う。

そしてもう一つは、ある理由で休日の救急病院というところに、半分酔っぱらった状態であったが、行かざるを得なくなったこと。これは、もちろんあまり好ましいことではないが、新鮮な経験だった。医者の世話になったのはもちろん僕ではなく、少し夜遅くから飲み始めて間もなく胃の痛みを訴えた、広島市内に住む僕の兄を連れて行ったのだ。

夜の10時を回っていたが、来院者の半分以上は子供だった。ほとんどの子は見た目は普通で、パジャマかなにかを着ていて、別になんてことはない様に見えるのだが、親が慌てた様子で「熱がある」とか「発疹がでた」とか「食べたものをモドした」と穏やかではない。大抵は特に大事ではなく、点滴とか投薬をしてもらって、親に手を引かれながらも自分で歩いて帰って行った。

兄は「急性胃炎」と診断され、痛み止めの注射と薬をもらって引き上げた。当然、宴は中止である。僕は独り深夜の市電に乗って、妻の実家に帰った。そういえば僕が昔過ごした和歌山にも、ある時代まで市電があった。夜の市電は、昼間とは違う、また普通の電車ともまったく違う独特の空間がある。暗く重い雰囲気。失敗したデートの反省を促すような雰囲気でもある(よくわからないが)。

さて、カサンドラの音楽はそうした雰囲気とは正反対に、いままでとはかなり趣を変えた陽気さと懐かしさの様なものに満ちた内容になっている。全編に漂うのはアメリカ中西部の空気。冒頭の"go to MEXICO"からそれはたっぷりと満ちている。

CDのライナーには歌詞とクレジットがあるだけだが、彼女のサイトを覗いてみると今回の作品を製作するに当たって、プロデューサーをはじめとするメンバーを一新したことなどが書かれている。また昨年秋にジョニ=ミッチェルへのトリビュートアルバムプロジェクトに参加したことなどにも触れられていて、そのあたりも今回のアルバムへの導線となっているようだ。

随所に聴かれるスライドギターに、ライ=クーダの世界に近いものが感じられる。その効果を全面的にフィーチャーした3曲目の"easy RIDER"はなかなかの大作。5曲目の"red river VALLEY"もカッコいい。今回、カサンドラ自身もアコースティックギターを弾いている。裏ジャケットでキャミソールに姿でウェスタンブーツを履いて、ギターを抱えた彼女の姿が凛々しい。

そしてもう一つ印象的なのはベースライン。2曲目の"closer to YOU"、4曲目の"it would be so EASY"、6曲目"POET"等で聴かれるアコースティックベースは、こういうベースの魅力を存分に伝えてくれる。不思議と夜中の市電にもマッチする。市電の車内は意外にうるさいのだが、これを聴いていると自分がどこか知らないところに向かっているような気分になる。

カサンドラの音楽を聴きながら、不思議なトンネルに入ってそれを抜け出たかの様な連休期間だったわけだが、なんとなくあっけなく過ぎてしまった。もしかしたらいまもまだトンネルの中なのかもしれない、などという想いも抱きつつ、明日からまた仕事である。そういえば休みの間は全くウィスキーを飲まなかった。これからシャワーを浴びて、連休の名残に少しやってみようかなと思う

Cassandra Wilson 公式サイト

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