1970年代後半から1980年代半ばにかけて起ったフュージョンブームは、多くの優れた演奏家を生み出す温床になった。面白いことに、このムーヴメントが"Bitche's Brew"に始まる「エレクトリック・マイルス」に触発される形で始まり、マイルスが交通事故の後遺症で活動を休止している期間中に盛り上がり、そして1981年にマイルスが復帰すると程なくして、その勢いは失速するように弱まってしまう。
ブームの立役者としてのマイルスの影響は明らかだろうが、その失速についても単なる偶然というわけでもないように思う。ただ、ロックやポップミュージックの台頭で、「ショウビジネス」という言葉が大きな意味を持つようになった一方で、楽器演奏の力量や作曲能力などからかなりかけ離れた世界で、ミュージシャンという存在が語られるようになりつつあっただけに、その意味でフュージョンが補完的に果たした役割は大きかったと言える。
ところが、誰もが認める「フュージョンの名盤」というものは意外に多くないように思える。期間中実に多くの作品(多数の「それふう」のものも含め)が発表されたにもかからずである。多くない、と書いたのは少し意味が違っているかもしれない。もう少し厳密に言えば、誰もが認める名盤というものが成り立たないとでも言おうか、人々の最高評価は分散してしまう傾向にあることが原因なのかもしれない。
ある人はブレッカー・ブラザーズの「ヘヴィー メタル ビバップ」を、ある人はリー=リトナーの「キャプテン フィンガーズ」を、あるいはスタッフの「モア スタッフ」を押す人もいるだろう。いやいやフュージョンはやっぱり日本だよと渡辺香津美の「キリン」をあげる人もいるだろうし、カシオペアの「ミント ジャムズ」こそ世界に誇る日本の云々と、話はまったくまとまる気配を見せないに違いない。まあ、いまあげた作品はいずれも名盤であることは、間違いないと思うのだが。
これは1990年代半ばからのテクノブームにも相通ずるものがある。ブームの発端となった作品は後世に残る名盤として受け継がれている(はず)だが、ブームの最中にリリースされた多くの作品は、どちらかと言えば一部のマニア—多くは当時自ら楽器演奏に明け暮れ、そうした演奏のコピーを熱心にしていた人—の神棚に祀られる以外は、人々の記憶から薄れてしまっている。
ジャズや1970年代のロックのように、その時代をいまに継承しようという強力なシステムはないし、もちろんそれ専門の雑誌などもない。これはフュージョンだからというわけではなくて、そのあたりからジャンルというものが成り立ちにくくなったという見方も出来るが、1990年代のヒップホップなどの例を考えてみると、必ずしもそういうわけでもないように思える。
僕は先にあげた作品の内容をよく憶えている。でもそれをいまさほど聴きたいとは思わない。だからCDも持っていない。代わりに、個人的にどうしても執着のあるごく一部の作品については、ときおりその作品の存在が音になって記憶のなかからわきあがり、無性にそれを聴くことを渇望することになる。今回の作品はそんなアルバムである。僕にとっての「フュージョンの名盤」ということになる。
ブランドX(エックス)は、当時ジェネシスのドラマー兼ヴォーカルとして活躍していたフィル=コリンズを中心に結成されたユニット。1970年代後半を中心に活動し、数枚のアルバムを発表している。「ライヴ ストック」は彼等の3枚目のアルバムで、ロンドンの3つのクラブでの演奏から5曲が収録されている。
この作品は発売された当時結構話題になった。コリンズの知名度は、彼がこのユニットから手を引いた1980年代に開始するエンターテイナー路線("One more night"や"Easy Lover"等々)に比較すれば、まだそれほどでもなかったわけだが、この作品はジェネシスのファン層以外からも幅広い人気を集めるに至った。僕もその一人だった。
僕はこれ以外にこのユニットの作品はほとんど聴いたことがない。そのことはフュージョンの魅力にも関係があるのかもしれない。この作品の魅力は、メンバー全員がライヴ演奏で即興的に一体化するスリルにある。特にベースのパーシー=ジョーンズがライヴに繰り出すスリリングなフレーズはたまらない。最初の3曲(LPでいうところのA面)は特に素晴らしく、2、3曲目がフェードアウトになっているのが惜しいと思っているのは、僕だけではないだろう。
最後に収録された「マラガ ヴィルゲン」が人気あることは知っているが、スリリングだと思うものの、いま聴くとちょっと大げさ過ぎてかえってつまらない印象で、つい笑ってしまう。この作品でコリンズがドラムを叩いているのは3曲だけで、あとの演奏で彼に代わっているのは、ジャコやパット=メセニー等との活動で有名なケンウッド=デナードである。彼と比較してもコリンズのドラムはなかなか上手いと思う。でも彼はドラマーだけでは終わりたくなかったのだろう。まあ大成功したのだから結構なのだが。
フュージョンはライヴが命。スタジオでせこせこトラックを重ねたりするものではない。この作品は正統派フュージョンファンからは、番外編というか亜流の突然変異みたいな扱いを受けているのかもしれないが、僕にとってはやはり後年に残る音楽的エッセンスを十分に持った名盤だ。フュージョンをあまり聴いたことがない人はもちろん、あの頃この手の音楽に熱くなった人にもお勧めしたい作品である。
ということで、今回はえぬろぐらしく(?)音楽べったりの内容にしてみた。実は前回のろぐを書いた直後に、やはり体調を崩してしまい、肩がこちこちになって喉まで腫れてきてしまい、仕事を休んだりしてしまった。やはりちょっと無理をしすぎたようだ。
いまではそれも落ち着き、仕事も一段落して、今日は数年ぶりにスポーツジムにも行った。最近流行のヨガを取り入れたエアロのプログラムなどに出てみたり、クライマーで汗を流したり、プールに浮かんだりして過ごしとても快適だった。ああいうところで集中して運動するのはいいものだ。また暇があれば少しでも通うようにしようと思う。
Brand X-The Annotated Discography 熱狂的ファンによるディスコグラフィー
Brand X なんと公式サイトがあるのですが、残念ながら活動再開以後の内容が中心になっています。
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