2/19/2006

ピエール=コシュロー「ノートルダムのオルガニスト」

先週は3人の男と酒を飲んだ。皆それぞれにワケあり。何にもないのは僕だけか。3人のうち2人は、大学時代の同期生。といっても僕の場合は、留年しているから、彼等は入学時の同期生である。彼等とは同じ日に、僕の勤め先近くの行きつけ「カドー」で飲んだ。

1人の男とはかなり久しぶりで、正月にもらった年賀状に、メールアドレスが書いてあったので、誘ってみたところ、実現の運びとなった。会うのは5年ぶりだった。以前、彼と飲んだのもこの店だったらしい。仕事のこと、そして彼の離婚と再婚に関する話を興味深く聞かせてもらった。彼は変わった男なのかもしれないと思ったが、いまの時代における同世代の男の例として、なかなかリアリティのある話だった。

もう1人の同期生は、バンド仲間。この日は急に声をかけたにもかかわらず、忙しいなか時間を割いて来てくれた。彼は急に辞令が出て来週から沖縄に勤務することになったという。メールで知らせてもらった一報に、僕も驚いたけど、なぜか反射的かつ正直に「うらやましい」という失礼な返事をしてしまった。実際に会ってみると、週末に家族会議、今週には仕事の引き継ぎと現地での家探しだね、と言いながら淡々とビールを飲んでいた。やはりうらやましかった。

「カドー」に行くのは、今年になってからはじめてだった。お店に新しいバイトの女の子が入っていて、これがかなり魅力的な女性である。聞けば大手プロダクションに所属する、女優さんの卵なのだそうだ。本業の関係で、必ず毎日お店に入れるというわけではないらしく、たまたまお目にかかれた我々はラッキーであったか。中年男3人でしばしメロメロとなり、別件で中座した転勤の彼は、名残惜しそうに店を後にした。

もう一つの飲み会は、以前からこのろぐにも登場している、小学生以来の幼馴染みとだった。彼は1週間前に心臓の手術をしたばかりだった。WPW症候群という、僕もはじめて耳にする病気なのだそうだ。手術といっても、開胸するわけではなく、足の付け根あたりからカテーテルを入れて、心臓の一部の組織を熱で変成させるというものらしい。おかげで術後翌日には退院、その1週間後にはこうして酒が飲める。不思議なものだ。

それでも、入院前は本人含めご家族もかなり心配していた。当日には和歌山の実家からご両親が駆けつけた。術後に元気に手を振った彼に、お母さんは涙を流されたという。心臓の手術となれば、心配するのも無理もない。当のその男も退院後、解き放たれた気分になったのか「人生観が変わった」とか言いながら、急に車を買替えて家族のヒンシュクをかったらしい。ともかく僕も安心した。ここでも非常に不謹慎ながら、なんとなくうらやましいような気持ちになった。

さて、音楽の方はこれがもう「オルガンブーム」に火がついた一週間となった。先ず、フランスのオルガン音楽に関する秀逸な解説と音源紹介が掲載されているサイト「風琴音楽史探訪」を発見し、そこで紹介されていたなかで(前回のメシアンの自演集も載っていた)一番興味を持った作品を手に入れることから始まった。それが今回の作品である。

コシュローがどういう人だとか、オルガン演奏とはどういうものかといったことについて、いろいろ書いてみたいとも思うのだが、ここではその辺は一切略すことにする。僕自身もまだ聴き始めたばかりだし、先のサイトを作られている浮月主人氏の業績を拝読してしまった以上、ものを書くのは憚られる。

少しだけ触れておくとすれば、オルガン音楽が即興演奏をベースに成り立っており、それは神父の説教と同じく演奏者が祈りの一部として自己の脳裏に直感した音楽を行なうものであるということ。そしてパイプオルガンという楽器が、基本的な構造はそのままに、長い歴史の中で今日もなお技術的に発展し続け、その外見や構造が大きく進化し続けているということ、この2つが、僕が直感的にこの音楽にいま惹き付けられている根本にあるように思う。

このろぐをはじめてから思うのだが、いくらアマゾンがロングテイルだと言っても、僕が欲しいと思う、そしてその筋の専門家が名盤とする、作品の多くはネットでも手に入れるのはまだまだ簡単ではない。存在を知ることは確かに容易くなったが、それだけでも有難いと思わねばならないのはわかっていても、やはり存在を知ったからには、実際にそれと邂逅してみたいと思うのは、人間誰しもであろう。

アマゾンでは取り扱いなし、頼みのイーベイもダメ。最後に発売元のサイトを探し当てたが、なぜかこの作品だけout-of-stockとなっていた。これは気長に中古を捜し続ける長期戦かと覚悟を決めようしたその前に、一応量販店を覗いておこうと、足を運んだ渋谷のタワーレコードにそれは置かれていた。CD3枚組で5500円もしたが、もうそんなことを躊躇している場合ではなかった。久々に量販店に感謝した瞬間であった。

作品の内容については、先のサイトの浮月主人氏の紹介文をここにそのまま引用させていただく。
コシュローの即興録音とはまさに「書かれざる」作品群なのだ。(本作品は)彼の作品演奏、コンサート即興、典礼即興の 3 面からベストチョイスでとりまとめられたもの。オルガン即興演奏史に深い爪痕を残したコシュローの濃厚な生命の記録。
コシュローの素晴らしさはもちろんのこと、オルガン音楽とは何かを理解するうえで必要な要素が、非常にコンパクトにまとめられている。

ちょうど、前回のろぐの最後に触れた、オルガン奏者ラトリーによるオリヴィエ=メシアンのオルガン作品全集(CD6枚組)も海外から到着。少しだけ部屋で大きな音で鳴らしてみたが、やはり録音がきれいでとてもよさそうである。しばらくブームは続きそうだ。新しい世界はやはり楽しいものだ。

A Pseudo-POSEIDONIOS 浮月主人氏のサイト。僕もまだ全貌が把握できていません。

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